クリスマスを終え、イースターを終えると、途端に試験が近づいてくる。
 6年生になったオレたちには、今年はOWLもNEWTもない。でもそんなのと関係なく、勉強は慌ただしさを増していく。溜息をつくリリーの隣で、オレも一緒に疲れた顔で机に突っ伏した。






 134.





「ねえ、、ここ教えてくれる?」
「んー?あー、えっとね」


 今年OWLを控えたメイファが不安そうな顔で変身術のノートを抱えてやってきた。変身術に関しては例の特訓と毎月の集まりのおかげで最高の成績を叩きだしているので、すっかり得意教科になっていた。とはいえ今年はレベルの高いクラスなのでそれも危ういんだけれども。
 一応、曲がりなりにも、今までは仮にも学年5位をなんとかキープしているため、後輩であるメイファやケイシュウからの質問くらいならなんとかなる。いやほんと努力型だよなオレって。


「基本はバカなんだけどな。要領も悪いし。周りが頭いいやつばっかだから無理やりでもついて行かなきゃというか」
「うーん、それは否定しないわ」


 なんであのバカ二人組が首席と次席を独占しているのかしらとリリーは唸る。もちろん、首席はジェームズ、次席はシリウス、3位にセブルス、4位にリリー、5位にオレ、10位くらいにリーマス。ちなみにリーマスに関してはオレより成績が悪いわけではなくて、全般的にオレより点はいいんだけれど魔法薬と薬草学と占い学が悪すぎるだけなのだ。オレは平均的に点数を取れているだけ。だからあまり比べても仕方がない。
 ただ6年生以降は受講する授業が人それぞれ変わるため、順位もあまりあてにならない。リーマスは例の3教科のうち1つは受講してないし。


ー!!!ちょっと来てくれないかー!!」
「お、おお?ジェームズ?なに」
「いいからー!!」


 女子寮の階段下から上に向かって大声が飛んできた。ジェームズの声だ。よく分からないままに返事をして、メイファとリリーに一言断って部屋を出る。もう遅いから外出禁止時間だ。そんなの気にするような奴らじゃないけれど。


「なに?」


 談話室に降りていくと、もう人はほとんどいなかった。下級生はもう寝ている時間だし、上級生もそれぞれ自分の部屋に引っ込んでいるようだ。試験も近いのに呑気だなぁグリフィンドールは、なんて他人事のように考える。
 ジェームズを真ん中にしていつもの4人が固まっていた。手招きするリーマスに呼ばれて、その輪の中に入る。


「………なにこれ?」
「簡易的だけど、追跡魔法の一種さ。ちょうどいい実験台がいなかったもんだから、君を敬愛する後輩、ケイシュウ・チャンくんをお借りしたよ。どうだい、面白いだろう?」


 ジェームズが指さすそれは、真っ白な羊皮紙の上を「Kayshue Chang 」と名前がくっついた足跡が動いている図だった。足跡はぐるりぐるりと動く。らせん階段を上ってるのかな?


「で、どーするんだ?これを要するに地図に応用したいんだろ?」
「ああ」


 こくりと頷くジェームズ。その手には、また別の羊皮紙が握られている。シリウスが札束のようにしてもっているメモの切れ端の山は、この半年間4人で手分けして探し回ったホグワーツの情報だ。ありとあらゆる抜け道を確認しまくるのは結構骨で、たまに意味不明な場所に飛ばされることもあって大変だった。たとえば西棟の柱にある突起を3回叩いたら落とし穴から滑り台になってて、湖に勢いよくダイブしたときは死ぬかと思った。


「ほんと、大変だったよね。まだ完璧とは思えないけど」
「リーマスは大丈夫?こないだ階段から落っこちた後輩の下敷きになったときの怪我は?」
「あ、もう平気。打ち身程度だし」


 上級生にもなると階段の気まぐれも割と把握しているし、落ちることはほとんどない。でもまだ1年生や2年生は話が違うわけで。数日前、リーマスはそんな下級生の下敷きになった。もちろん周りにいたオレたちは相当びっくりしたわけだけれども。


「とにかく、地図もけっこう進んでる。でもまだ隠し通路が数個はあると思うから、とピーターは引き続き調査を頼んだ――南棟と展望台の近くが怪しいかな――リーマスはホグワーツの歴史をもう一度さらってくれるかな。シリウスは追跡魔法のレベルアップを。僕は地図に魔法で書き記していく作業を続けるよ」
「オーケー」
「わかった!」
「了解」
「イエス、サー」


 それぞれの返事をしながら、オレたちは顔を見合わせて笑った。


「……あと、1年だからね」


 試験が終わって、クィディッチが終わり、最後の夏休みが過ぎれば。




 もう、最上級生だ。










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140112