「Happy Merry Christmas ladies and Jentlemen!!」


 わぁっと会場が沸いた。悪戯仕掛人の整えたクリスマス・パーティーは最初から素晴らしい盛り上がりを見せていた。当然だろ、この日のために頑張ったんだから・・・!
 オレはシャンパン(ノンアルコール)を口に含みながら、感慨深げに会場を見渡した。





 131.





「The party that is exceptionally splendid on Christmas with us!」
?どうしたの、そんなところで。一人で」
「リリー」


 駆け寄ってきた親友の姿に、オレは顔を綻ばせた。綺麗に髪を結いあげたリリーはとても綺麗で、それだけにジェームズが裏で奇声をあげてたけどスルー。奴が今日の夜、リリーと二人になりたがっているのは知っているけれどオレは協力する気はない。でも邪魔する気もないけど。


「今日のパーティ、貴方たちの主催でしょう?流石ね」
「そう言ってくれると嬉しいよ」


 クィディッチから数日後、次の試合も絶対に勝つ!と意気込むジェームズに付き合い、連日の特訓が続いていたわけだけれど。クリスマスばかりは休暇になるし、選手の中には実家に帰る子も少なくない。(今年はホグワーツに残る方が安全だからと言う理由で、家族から帰らないように言われた子もいたようだけれど)
 クリスマスはやっぱり、オレは家には帰れない。アオト兄には既に連絡もしてある。そのせいか、いつものメンバーはことごとくホグワーツに残ることを決めてくれた。嬉しかったけれど少し申し訳なくて、パーティを開こうと提案したのはオレだ。動いていた方が気も紛れるし。


「素直にクリスマスを楽しもう。ね、リリー。メリークリスマス」
「・・・ええ。メリークリスマス、


 クリスマスは、オレにとって触れたくない言葉だ。
 だけど、今日が祝福すべき聖なる日であることは確かで。


!」
「んあ?」


 ケーキの乗った皿を手にしながら、聞きなれた声に振り返る。リリーと楽しく歓談しようと思っていたのに思わぬ邪魔が入った。人ごみを掻き分けるようにしながらシリウスがこっちに来ようとしていた。次から次へとかけられる女の子からの誘いを興味なさげに振り切りながら。
 思わずぽかんと口を開けてしまった。だってお前、さっきまであそこで賑やかにワイワイやってたじゃん。だけどその後ろのジェームズの姿に納得して目を細める。


「なんだよ、シリウス、ジェームズ。てかリーマスとピーターは?」
「リーマスはあっちでケーキの山を一人で喰い崩してて、ピーターはそっちで酔っ払ったスラグホーンに絡まれてるよ」
「Oh My God」


 シリウスの示す方を見てオレは思わず沈黙した。リーマスは目の前にある巨大なケーキの山にフォークを刺して、口に入れるという行為を淡々と続けている。怖い。かなり怖い。無表情でロボットのように一定間隔でフォークが動いてる。怖い。ピーターは哀れ、酔っ払いに絡まれてるみたいだけど、あれはもう仕方ない。ごめんピーター。


「メリークリスマス、リリー」
「メリークリスマス、シリウス。で、貴方の後ろのその人はいったいどういうつもりなの?」


 苛立ちを隠そうともしないまま、リリーはにっこりと笑った。いつもなら茹蛸状態になるか興奮状態に陥るかしてただひたすらに面倒臭いジェームズなのに、今回ばかりはなんだか雰囲気が違って。シリウスはそっとそこから離れる。さりげなくオレまで手を取られてしまった。


「シリウス?ジェームズとリリーは、」
「静かにしてろ、邪魔すんな」


 目を向けると真剣な気配のジェームズが、何事かリリーに伝えているのが見えた。だけどそれだけしか分からないまま、オレはシリウスに引っ張られるがままに足を動かす。なんなんだよいきなり。


「なぁ、どーしたんだよ」
「我が相棒の神聖なる覚悟を邪魔するわけには行かなくてな。悪ィ、ソーラ」


 覚悟、って。なんとか引きずられながらも後ろを振り向くけれどもう二人の姿は見えない。ていうかシリウスはどこに行く気なんだ。ずんずんと引かれながらオレは、皿によそったまま置いてきたローストビーフのことを考えていた。食べたかったのになー。
 そのままテーブルを離れ、柱の間を抜け、外に。ってマジでどこ行く気なの!?


「ちょっ、シリウス!どこ行くんだよ!」
「いーから黙ってついてこい」


 オレの抗議もあっさり無視しながら、シリウスは突き進む。外はしんしんと雪が降っていた。二週間ほど前から雪はホグワーツの城を覆い隠すように降り積もり、音という音を吸収して静かな夜を作り出していた。今朝起きた時には振っていなかったのに、いつのまにまた降り始めたのだろう。つーか寒い。
 そういえばとオレは引っ張られる右手を見た。ごくごく普通にとられたその手はシリウスの細い、けれど少し骨ばった男の人の手が握っていて。今更のことながら何だか照れくさい。妙に手が、頬が熱い気がするのは何故だろう。
 
 冷たい冬の風が一陣通り過ぎた。思わず身をちぢ込ませる。


「さ、寒いんだけどシリウスさん……」
「……あ。悪い」

 
 震えるオレの声にようやく彼は振り返って、それからはたと気が付いたように目を丸くした。そりゃそうだ、クリスマスパーティとはいえ別にドレスコードなんてないけれど、それなりにパーティっぽく私服なおかげでローブなんてない。外に行くなんて思ってなかったから防寒具のひとつも無い。そんな姿で雪のなかなんて飛び出したらそりゃあ誰だって凍えるだろ。 


「あ――……もうちょっと我慢して、な」
「???」


 おもむろに自分のジャケットを脱ぎだしたかと思えば背にかけられる。いやいやそっちだって寒いだろうに。大丈夫だからと言われても、頬も鼻の頭も霜焼けで真っ赤にしているおかげで信憑性は皆無だ。


「いや、いいってば。シリウスが風邪ひくよ」
「平気」
「なに変なときに意地はってんだよ、いいよ別にオレだって寒いけど一応セーターは着てるんだし」
「もう着くから。いい」
「は??」


 頭のなかはクエスチョンマークで一杯だ。ふと言われて前を見ればそこは湖で。厚く氷の張ったそこは当然ながら静かで、寒いし、誰もいない。意図が呑み込めないままシリウスの灰色の瞳を見上げる。彼はそのまま、ほとりのひとつの大きな古い樹を指さした。動かないでいると再び腕を引っ張られてそこまで連れて行かれる。


「だ、からなんだよ……一体」
「もうすぐ雪で覆われて見えなくなるし、たぶん入れなくなる。いいから下、見てみろ」
「? ……なにここ、空洞?……樹の洞?」


 覗き込んだそこは、真っ暗で。声が響く。思ったよりも大きくて広いのかもしれなかった。確かに穴からは人が入れるくらいの大きさで、頭を突っ込んで中を窺う。何も見えない。

 
「……Lumos」 


 杖に明かりをつけて覗き込む。ちょっとだけトンネルのようになっていて、先はどうなっているのか見えない。躊躇っていると、シリウスが先に動いた。


「先に降りて、待ってる」
「えっ?ちょ、ちょっと!」


 軽々と穴に飛び込んだ彼はその洞のなかに吸い込まれていった。呆然とその姿を見送ると、下から声が聞こえてくる。なんなんだと思ったけれど意を決して、オレも中へと飛び降りた。




 
 





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