「・・・なぁ、ジェームズ」 「なんだい、シリウス」 「本当は、の呪文はそんなに効き目がなかったんだろ?」 先生たちの魔法や、ジェームズたちが自分でかけた魔法以上の力は、ほとんど作用していなかったはずだ。の過労はおそらく、本当に単なる過労。ひとつ溜息をつくと、ジェームズはそっと唇に人差し指を立てた。 「・・・言うなよ?」 130. 「でも、あながちウソではないよ。ほんの少しかもしれないけど、のかけた術は確かにかかってたと思う。それに、が頑張っているのは確かだったし」 才能も力もないからと諦めた技術に、もう一度挑戦することはきっとすごく難しい。それでも、は毎日、クィディッチと勉強といたずらとを両立させながら、時間を見つけては頑張っている。そう言ってジェームズは優しい目をした。 「の勉強してる・・・日本の呪術は、きっと優しい力を持っているんだと思うよ。が僕らにかけてくれたとき、ほんの少し暖かく感じたんだ。何の根拠もないけど、きっと使えるようになると思うよ」 「・・・それ、起きてる時に言ってあげなよ?」 医務室のベッドの枕に沈んで幸せそうに眠るを見ながら、リーマスが言う。「護るための力を」と、が決意の表情で言っていたことを思い出す。そうしているうちに、マダム・ポンフリーに「面会時間は終わりですよ!」と言われ、慌ただしく医務室を出て寮に戻ってきた。 「1日で帰ってくるのは分かってるけど、寮が静かに感じるね」 「そうだな」 「よかったね、シリウス?が無事で?」 「・・・・・・・なんだよリーマス」 リーマスの意味ありげな瞳がオレを見た。なにか含むモノを感じて、思わず目をそらすとわざとらしいため息が聞こえてくる。なんなんだよ。 「いい加減認めたら、シリウス。のことが好きなんだろ?」 「・・・・・・」 沈黙を返すと、リーマスはオレをチラリと見て、構わずに続けた。 「今はいいよ。多分、だってそういう関係になることは望んでないだろうし、自覚ないし、お子様だし。でもさ、シリウス。あと1年と半分で卒業だ。それから先は―――知らないよ」 「・・・・・・、リーマス」 「そろそろ腹を括りなよ、シリウス。君が彼女を大切に思ってることなんかバレバレだよ」 だって、きっと、と呟いたリーマスはそのまま目を伏せて、ベッドに腰掛ける。既に熟睡中のピーターの寝息が聞こえてくる。 「・・・が、護りたいっていう気持ちになってくれて、よかった。復讐とか、馬鹿なこと言いださなくてよかったって、本当に思うよ。・・・だけど、決してそういう感情を持っていないとは限らない」 呑気に幸せそうに笑うの、その心の奥底に、昏い感情が眠っているだろうことは考えたくなかったけれど。絶対に言わないけれど、もしかしたら本人も自覚は無いかもしれないけれど、それでも。 「――――『闇祓い』になりたいって、そういうことだろう?」 「だろうな」 『闇祓い』は戦うことが仕事だ。それも最前線で、常に戦場に身を置き続ける。本当にただ純粋に護ることだけが目的なら、『闇祓い』になる必要はない。の場合、『闇祓い』の家系であるから志望するのは自然だが、家族を失った今、その意味は変わってくる。 「・・・だから、君は『闇祓い』を志望したんだろう?」 「それだけが理由じゃないけどな」 リーマスはさっさと毛布を整えてその中に潜り込んで、カーテンを閉めた。それを見ながら、オレも寝る準備を整える。 「おやすみ、シリウス」 「・・・ああ。おやすみ、リーマス」 そっとカーテンを閉めたオレは、リーマスがその日なかなか寝付けないまま夜を明かしたことを知らなかった。 ←BACK**NEXT→ |