「ねえ、寝てる?」 「え?寝てるよちゃんと」 「・・・・・・隈、すごいんだけど」 リーマスにぐいと引っ張られて、目の下をなぞられる。え?そんなに? 127. 「そんなに。毎晩毎晩、なにしてるの?」 「と、特訓」 「特訓?」 不機嫌そうなリーマスに説明しようと口を開くと、ジェームズの大声が降ってきてオレは慌ててその場を離れた。今日のクィディッチの試合はハッフルパフだ。シーカーが新しく入れ替わったらしく、ジェームズが警戒している。 「ちょっ、と!!?隈すごいんだけどどうしたんだい!」 「え?寝てるよ、昨日は22時には寝たもん。試合の前日に夜更かしなんかしないよ」 「本当かい?キーパーは頼りにしてるんだから、しっかりしてくれよ」 こくんと頷いてオレは目の下に触れた。そんなに酷いかなあ・・・。ユニフォームに着替えてこいと各選手に指示されて、素直に更衣室に向かう。深紅のユニフォームは久々で、なんだかすごく嬉しい。 ジェームズの真剣な瞳がフィールドを見渡している。11月に入り、寒くなってきたことも心配の1つだけど、もっと怖いのは天候だ。曇った暗い空を見上げる。去年のハッフルパフ戦は勝ってるけど、油断はできない。 「これはひと雨来そうだな・・・視界が悪くなりそうで嫌だな。メイファは髪を縛っとけ」 「そうね。頼りにしてるわ、ギル」 「エドガー、ディック、2人は棍棒を滑って落とさないように気をつけろよ」 「おいアドルフ、靴ひもほどけてる。アスターは初戦だな、緊張しすぎるなよ」 「は、はい!」 「選手!集合!」 みんなで円陣を組んでジェームズの真剣な声が響く。初戦だからといって油断はできない。 「勝つぞ!」 * 「・・・ヤバい、マジで雨降ってきた。雷鳴ってるよ・・・」 クアッフルを投げ返して、オレは遠くの雲を睨んだ。大粒の雨がぽつ、ぽつと降り出している。ピカピカと空がいくつも光り始めて、不穏な空気が漂い始める。始まる前に、気休め程度だけど雷避けと雨避けの護法をチームメイトにかけておいたけれど不安だ。そりゃ、先生たちのかけた魔法もあるけれど、危険なのには変わりない。 「本当に効いてるのかな、オレのかけた護法」 練習するだけしたけれど実践したことはなくて、いい機会だからと張り切ってみたはいいものの上手くいっている自信なんてない。少しだけ自分から雨粒が弾かれているような気はするけれど、それでも「気がする」程度で。 心配ばかりしてても、仕方ないのだけれど。 大事なチームメイトを「護る」くらい、出来たらいいのにと思う。 「クアッフルはただいまグリフィンドールのメイファ選手が持っています――――おっと華麗な箒捌きだ!!逃げろ!その調子だ!」 「アスター!後ろからブラッジャーが狙ってる!避けろ!」 シリウスの実況はもう堂に入ったものだ。耳慣れた声がフィールドに響き渡る。悪くなっていく視界に、ジェームズの赤い後姿が目に入った。 「ギルバート選手シュウウウウウトォォォ!見事!現在20対0でグリフィンドールのリード――――現在ボールはハッフルパフに渡りました、チャンスボールです――――」 「ディック!頼んだ!!」 「おう!」 グリフィンドールのビーターの二人が軽やかに飛んで、ブラッジャーを殴り飛ばした。ビーター同士の攻防が続き、それをすり抜けたチェイサーが迫ってくる、一騎打ちだ!これくらい守れなきゃキーパーなんてやってられない! 「さぁ、来いっ!」 3つのゴールのうちどれを狙うかは読みあいだ。右・・・左?チェイサーの視線がチラリと左へ行く・・・左!箒をギュッと握りしめて重心をずらす。投げられたクアッフルを抱きとめてブレーキをかけた。勢いでゴールを通り抜けたら意味ない。 「・・・よしっ!」 「ナイスセーブ!!」 「メイファ!頼んだっ!」 間髪おかずにすぐ近くに飛んできたメイファにクアッフルをパスしてオレはゴール前に戻る。チーム内1の素早さを誇るメイファは、女の子だけどうちのチームで一番の特攻だ。綺麗な黒髪を翻して敵チームに突っ込んでいく頼もしい姿を見送り、オレは額の汗を拭った。 「んっ!?」 「あれ?」 ざわざわと観客も騒ぎ出す。遥か上空、真っ黒な雲で覆われた空で深紅と黄色の姿が踊る。バリバリと雷の細い線と一緒にせめぎ合う姿。 「シーカーが・・・!スニッチを見つけたのか!」 「ジェームズ!!」 ほぼ同時。雨が強さを増し、バラバラと音を立てて雨粒が落ちていく。上空のジェームズは大丈夫なのだろうか。飛び回る姿は蟻のように小さくて、様子は見えない。 「!」 「っ!任せろ!」 大声に視線を戻すと飛んでくるクアッフル。遠い!思わず身を乗り出してキャッチして、バランスを崩した。グラリと傾ぐ体を慌てて戻し―――あ。やばい、反対側のゴールにもう一つのクアッフルが――― 脳が認識するより、体が早く動いた。 「!?」 > ←BACK**NEXT→ 130812 |