なんとなく、気づいてはいた。
 闇祓い訓練の最中・・・いや、本当はもっと早くから気づいていたのかもしれない。


「・・・だよな?」
「あぁ」


 不可抗力とはいえ二人きりになるのは久しぶりで、会話に困ってとりあえずOWLの話題をふったは良いものの、この鈍くさ鳥頭はどうやら何にも意識はしていないらしい。オレばっかり意識してるのがなんだか腹立つ。


「・・・あのさ、シリウス。さっきからなんかヘンだけど・・・熱とかあんの?」


 不思議そうな空色の瞳が、下から見上げてきて。覗き込んでくる形だから必然的に上目づかいで、長い金糸の睫毛が見える。色素の薄い唇の距離が近くて――――・・・


「なっ・・・なんでもねぇよ!!!」





 122.





 おかしい。絶対におかしい。このシリウス・ブラックがなんでこんなに動揺しているんだおかしいだろこんなの。
 新入生入場で興味を逸らされたらしいはもうオレから視線を外して、おとなしく一年生の方へ姿勢を戻した。細いうなじが白くて・・・ああもう!なんなんださっきからオレは!

 ふと気づくと横に、ニヤニヤした顔をしながらジェームズとリーマスが並んでいた。さっさと腰を下ろした二人から嫌な視線を浴びてオレは眉をひそめる。ピーターとリリーはまだ帰ってこない。


「・・・なんだよ」
「いや?よーやく君もひとつ進歩したかなーっと思ってね。ねぇ、ムーニー?」
「同感だねプロングズ。訓練中になにか進歩はあったの?」


 それがね、とジェームズが嬉しそうに話し出した。声を潜めているせいか、新入生に気がとられているのか、は一向に気が付かない。大声を上げて静止するわけにもいかず、ジェームズは嬉々として口を開き続ける。


「実力的に僕ら3人でチームを組まされることが多くてね。まあ、間違っての力が暴走して周りに知られることも避けたかったからなんだろうけど。危険な訓練も多くてね、吊り橋効果ってやつかな?彼女がシリウスを意識しだしたかは・・・アー、ともかく、シリウスが大分過保護になっててねー。見ものではあったかな?」
「へえ、楽しそうだね」


 誤って≪移動者≫の力が働いて部外者に知られても困る。アオトさんのその説明があってこその3人チームだったのに!睨んでもジェームズは止まらない。て、いうか。リーマスの目が笑ってないんだけど怖ェよ。


「あれ?ジェームズとリーマス、戻ってきたんだ」
「うん。ただいま、
「おかえりー」


 呑気なの声にリーマスもニコニコと答える。呑気、だよなあは。なんにも考えてないようで、アホ面で。よく笑って、泣いて、怒って、感情豊かで。そうまるで、夏の痛いほどに鮮やかな空で輝く太陽のような。

 だけど、本当はそれだけじゃないこともわかっている。


――――をよろしくな。お前らなら任せられるから


 両親と義姉を失ってなお、最愛の兄まで失ってしまったら、は。
 ・・・護りたい、と、思ったんだ。





*




、聞いてるかい?」
「んぇっ!?あ、ああゴメン」
「全く・・・。じゃあもう一度言うよ。今年のクィディッチトーナメントが発表された――――最初の対戦は、2か月後。11月だ。相手はハッフルパフ」


 新学期早々に集められたオレたちは、キャプテン・ジェームズ・ポッターのもとでミーティングを行っていた。新メンバー選抜は2週間後。去年卒業したアドルフの代わりの新たなチェイサーを必要としている。どうやらジェームズにはすでにスカウトしたい心当たりのある選手がいるらしい。


「今年2年生なんだけどね。クライスの弟がいるようなんだ。彼に声をかけてみようと思ってる」
「クライスって、弟いたんだ・・・そういや全然会ってないな。元気かな」
「今年の編成はそこだけかな。来年はエドガーもギルも卒業だし。頼りにしてるよ、
「・・・うん」


 結局、グリフィンドールはいまだに優勝杯を手にしていない。
 今年と来年しかもう、チャンスがない。なにがなんでも、今年は必ず優勝杯を。≪救世主≫世代が卒業してから、一度も優勝杯を握っていない。


「今年こそ、絶対に勝つよ」
「ああ」











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