「へぇ、でもいい経験になったね、」 「うーん・・・まあ、そうだな」 この夏休みのアレやコレや大変だった訓練のこと、容赦なく仕込まれた呪いや防御魔法のこと、鬼の様だったアオト兄もとい教官のこと、ぶち込まれた女子寮でアオト兄の同期女子達に思い切り遊ばれたことなどなど、久しぶりに会ったリーマスに延々と愚痴っていたら、彼はにこにことオレを宥めながらチョコレートを差し出した。 夏の間会えなかったけれど、変わってなくて安心するなあ、リーマスは。 120. ガタン、と汽車が揺れる。外の風景はどんどんと山や野原が増えていき、ロンドンの都会が遠ざかっていく。愚痴も一通り吐き終わり、オレはリーマスから貰ったチョコレートを口に放り込んで一息ついた。 「アオトさんも元気みたいだね」 「うん。もー、ほんとこの夏は大変だったけどな。ちょっと元気すぎるって」 なにかひとつ失敗するたびに、海色の瞳がギラリと輝いてその瞬間に何度も拳が降ってきた。本当に怖かった。『闇祓い』の仕事は、一度の失敗が死を招きかねない。ンなことは分かってるけど、それでも怖かった。正直、訓練に参加したことを一度は確実に後悔した。だから訓練期間が終わった時は心底ホッとした。 「大変だったみたいだけど。でも、よかったね、」 「・・・・・・うん。そうだな」 リーマスは優しく笑う。その言葉に、そっと頷く。うまく言えないけれど、本当に、よかった。バタバタと足音が聞こえてきて、勢いよくコンパートメントの扉が開く。 「ただいま!いやー、ちょっと買い過ぎちゃったよ。ハイこれ。大鍋ケーキに蛙チョコに百味ビーンズにハニーデュークスの新作クッキーと…」 「わあ!ジェームズ!落っことしてるよ!!」 「さんきゅーなピーター。あとこれ。七色ソーダとバタービール」 三人が大量に持ち込んできたお菓子の山をどうにかこうにか崩さずに席に置いて、くだらない話に花を咲かせる。夏休みの大半は訓練してたから、オレとシリウス、ジェームズはお小遣いが有り余っているのだ。訓練が終わったあとの残り少ない日数で、ゾンコに駆け込んだのも懐かしい。普段買えないようなちょっとした贅沢品まで買ってしまった。うう・・・。 「ところで親愛なるわが友ムーニー、君は夏中なにをしていたんだい?」 「僕?」 ジェームズの母特性のマドレーヌをみんなで頬張りながら、視線はリーマスに注がれた。夏休みにほとんど遊べなかった、すなわちリーマスとピーターには全く会えなかったというわけだから。そもそも5人で会わない夏休みなど初めてだったし。 「2年の時はちょくちょくダイアゴンとかで集まってたし・・・の家に泊まりにも行ったじゃないか」 「3年生の時はアオトさんたちの結婚式だろ?4年のときは、以外はジェームズの家にずっといたし」 「去年は海とキャンプだね。そうか、今年は集まれなかったんだねえ」 どこか感慨深げにリーマスが頷いた。蛙チョコを喉に詰まらせたピーターの背中をさすりながら、彼は続ける。 「僕は、今年はフランスとドイツとルーマニアへ家族旅行に行ってたよ。一か月くらいかな」 「へぇ、いいなー」 「卒業したら家族旅行も簡単に行けなくなっちゃうからね」 「・・・そっか」 あと、2年しかないんだ。なんとなくしんみりとした気分になる。だけどそう感じたのはオレだけだったようで、シリウスは遠慮なく話を再開する。 「オレたちもどっか旅行に行きたくねー?まだ無理だけど」 「いいね!どうせなら遠くに行きたいな。アジアとかどうだい?」 「ねぇ、僕、日本に行ってみたいな!」 「・・・日本かあ。うん、いい国だよ」 じいちゃんもばあちゃんも、母と父は絶縁宣言をしていたしオレが攫われたっていう事実もあったし、ものすごい確執があるとは思う。だけど、それでも孫のオレには厳しいながらも優しい二人だった。祖母は修行(?)が辛くて縁側で泣いてると、黙ってミカンと折り紙を持ってきて鶴を折ってくれたりして遊んでくれたし、祖父は風邪をひいて寝込んだ時に特別に祈祷をしてくれた。だから恨んでもいないし、嫌いではない。 母も祖父母も素直になれない家系だったんじゃないかなと思う。 「色鮮やかな国だよ。いつか、みんなで行こう」 そのときは、笑って祖父母に会えないかなあ。 ←BACK**NEXT→ 130614 |