「ふっ、パッドフット、まだまだ精度が低いな」 「ハッ、ソーラ、お前もそもそも使いこなせてねーぞ」 「いいからさっさと決着つけなよ」 「「ジェームズは黙ってろ!!」」 119. 「くっ・・・!」 さすが、シリウスだ。 ジェームズに次ぐ成績、悪戯で鍛えた魔法の実力、元から持ってるセンス。飛んできた呪いをスレスレで避けながらオレはうなった。咄嗟に放った盾の呪文も軽々と跳ね返した彼は、そのままオレをまっすぐに見据えて狙いを定める。 「負けた方が今日の教練場掃除だからな」 冷静なアオト兄、いや教官の冷ややかな声が響く。実践訓練はいつもこんな調子で、負けた訓練生にはペナルティが課されてしまう。別の生徒と戦って既に勝利を収めたジェームズは、余裕の表情でにやにやとオレたちを見守っていて腹立たしいことこの上ないけれど、そっちに意識を向けている余裕などない。 「いい加減に、捕まれよ!!!」 「ヤダね!」 魔法の実力なんかじゃ勝てっこないから、オレはちょこまかと動き回りシリウスの攻撃を全て紙一重で交わしていた。かといって肉弾戦に持ち込んだって敵わないし(さすがに体格差がありすぎる)頭を使わないと勝てない。さあ、どうする。 「・・・普通に戦っても勝てないんだよな・・・」 シリウスは背が高い。オレよりも肩幅もあるし、手のひらもオレより大きい。放つ魔法は強力だし、火のようなその性格を表しているようだ。だけど、本当の戦場は、シリウスよりもずっとずっと強いやつがごろごろいるわけで。飛び込んだ岩陰でシリウスの様子を窺いながら汗を拭った。――――強く、なりたい。 「Locomotor Rock!」 「なっ・・・!!」 シリウスの方向を狙って飛んで行ったオレの呪文を、彼が見事に避けてくれたおかげで、目標の巨大な岩に命中させることに成功した。ゴ、ゴ、ゴ、とゆっくりと動き出した岩はたちまちにゴロン、ズシャ、と動き出す。 「はァあああああ!!!??」 さすがに蒼い顔で飛び退ったシリウスがさっきまでいた場所に、大岩が落ちてきて物凄い地響きを立てた。すかさずオレは岩陰から飛び出して叫ぶ。 「Locomotor Mortis!」 「うっ・・・わ!!」 悲鳴を上げてすっ転んだ対戦相手をすかさず縄で縛りあげて、オレはホッと肩の力を抜く。やった、勝った。けれどこっちを向いたシリウスの灰色の瞳がキラリと不穏な輝きを帯びて、慌てて杖を構えなおす―――でも、遅かった。 「Wingerdium Leviosa!!」 「やあッ!?うっ、わ、―――――――――――ッ!!!!」 空高く跳ね上げられて、気が付いたら宙ぶらりんで逆さづりになっていた。予想外の反撃に次の手が遅れる。てか、頭に血が上る! 「〜〜〜このッ、縛られてるくせに往生際が悪ィぞ!馬鹿犬!」 「『やめ!』があるまでは勝負は続いてるんだよ、鳥頭!」 お互いに怒鳴り合っていても、消えない闘志に瞳がギラリと輝く。だけどそれを遮ったのは、聞きなれたテノール声だった。 「やめ。―――引き分けだ」 「「そんな!!」」 「引き分けだ。は、圧倒的に体力も体格も劣る相手に対して、よく考えて動けていた。直接ではなく間接的に敵を狙うのも良い。だが詰めが甘い、最後まで油断するんじゃない」 「・・・ハイ」 「シリウスは強力で正確な呪いを撃てるのに命中率が低すぎる。相手がすばしっこくて足が速いとはいえ当たらないにも程がある、というか落ち着け。だが諦めず反撃のチャンスを掴んだのは良かった。すぐに逆上するのが欠点だな」 挑発に乗りやすいから気をつけろ、という言葉に、シリウスは渋い顔で頷いた。その通りだよなー、ほんっと短気なんだから、こいつ。アオト兄の杖が一振りされて、オレはそのまま地面に落下して頭を強かに打った。痛い。もうちょっと優しくしてくれてもいいのに。 「さて」 アオト兄が一息つくのを見て、オレと縄から解放されたシリウスは顔をひきつらせた。 「今回の実戦訓練での敗者並びに引き分けた者、全員で教練場の掃除。いいな」 視界の端でジェームズが上機嫌でメガネを上げていて、なんだか無性に腹が立った。 ←BACK**NEXT→ 130511 |