「ねー、ジェームズー。オレの羽ペン一個知らないー?」 「知らないよー。どうしたんだい?」 「んあー。なんかどっかいっちゃったぽいんだよねー。ピーターとリーマスは?」 「あ、えと、ごめんね。知らないよ」 「僕も知らない。使う?」 「あ、いや予備あるからいいんだけど。さんきゅ」 12. しかしスッキリしないなぁ。大広間でお昼を食べに席について、早々に食べ終わったから宿題でも進めておこうかと荷物を見てみるとコレだ。なんでかな全くもう。 トイレに立ったシリウスの荷物を勝手に漁り、慌てたピーターに止められつつもオレは構わず続けた。大丈夫大丈夫、なんだよピーター心配性だよ。 「怒られちゃうよ、!」 「らいじょーぶらいじょーぶ。シリウスが怒ったって怖かないよ」 「・・・てめぇ、よく言ったな」 「ふあ?」 低い声に顔をあげて、途端にごがん、と落ちてきた拳骨。じんじんと額が痛む。そこには戻ってきたシリウスが、嫌な笑みを浮かべて立っていた。 「あ、おかえり」 「おかえりじゃねーよ。お前、何やってんだよ」 「んー。いやぁ羽ペンが一本どっか行っちゃってさー」 おっかしいな、ほんとにさっきまであったんだけど。 釈然としない思いで腕を組んだ。そりゃ、困るか困らないかって言ったら困らないけど、なんか嫌だ。どこで落っことしたんだろう?うーんと唸っていると、ぽん、と肩に手を置かれた。その人物を振り返る前に、目の前にいたジェームズが目を輝かせる。 「リリー!!僕に会いに来てくれたのかい!?嬉しいね光栄だねさあさあ座って!」 「うるさいわね誰があんたなんかに。。羽ペン落としたの、貴方だったの?」 「え、落とした?」 ええ、と頷くリリーに、ほっとした気持ちで息をついた。よかった、リリーが拾っておいてくれたみたいだ。ハートマークを撒き散らさんばかりのジェームズを鮮やかに無視し、リリーはしかし困ったように首をかしげた。 「ごめんなさい、私も持ってないの」 「えっ!?」 「さっき中庭で・・・落ちている黒の羽ペンがあったの。でも、私が拾う前に別の人が拾って持って行っちゃったのよ。あのときはその拾った人のかと思ったのだけど、あの羽ペン、いつも近くで見てたような気がして・・・。のだったのね?道理で見たことがあるわけだわ。気づかなかったなんて」 肩を落とすリリーに、オレは慌てた。 「いいよ、それが分かっただけでも嬉しいし。ありがとう、リリー」 「・・・・・・・・・・・そう?なら、良かったわ」 安心させるように笑って礼を言うと、リリーは少し黙ってから花が開くようなふわりとした笑顔を浮かべた。どこか色づいたようなリリーの頬にオレが気付いたと同時に、ジェームズが暗い声を発する。 「・・・・・・・・・・・・って本当に女の子かい?」 「てめケンカ売ってんのか」 「ジェームズ!なに言ってるの失礼よ!」 「だってなんでそこでの笑顔にリリーが顔を染めるんだい!?」 「あなたなんかよりも百倍かっこいいからよ!」 え、ちょっとリリーさん? オレが固まったと同時に、斜め前から「ぶふぁ」という奇怪音が聞こえた。目をやると耐えられなかったらしいリーマスが噴き出して腹を押さえている。気がつけば、ピーターはテーブルに突っ伏しているしシリウスは耳まで真っ赤にして顔を手のひらで覆っている。なにこの状況。 「百倍!?そんな、せめて倍だけにしておいてくれないかい!?」 「バカなこと言わないで、百どころか千よ!億でもいいわよ!!」 「あ、あの。り、リリー?」 「・・・・・・・・・・・・・・・」 「は、はい!」 でろでろと効果音のつきそうな背景とともにジェームズが壊れた目でオレを見た。思わず背筋を正す。鬼気迫る表情で、ジェームズは地獄の底から響きそうな声を出した。怖ぇよ!! 「君、同室だからってリリーに変なことしてるんじゃないだろうね!!??」 「一回死んで生まれ変わってこいこの変態!!!」 力いっぱいの右ストレートが見事にジェームズの右頬に入った。そのままジェームズはゆっくりとスローモーションのように床に倒れこむ。どしゃあ、と無様な音が聞こえた。シリウスが近寄って恐る恐る、指でソレをつんつん、とつっついた。反応はない。 「・・・何考えてんだ、この馬鹿・・・・・・」 「さすがだわ、!」 嬉しそうに歓声をあげたリリー。・・・ちょっとだけジェームズに同情した。でも、ま、仕方ないだろ。だってなに言ってんだよほんとになに言ってんだよ気持ち悪いわ!リリーは、オレの、大切な友達だ。いくら男言葉で一人称がオレでも、オレは女だ!そういう趣味はない! 「これでジェームズもちょっとはコリたわよ。ありがとう」 「僕の名前を呼んだかいリリー!」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 変態大魔王、復活☆(きらーん) ・・・(きらーん)じゃねえよ!! リリーが硬直したのが分かった。仕方なくオレはシリウスを呼ぶ。 「ごめんシリウス。頼むからジェームズをどっかやって」 「・・・ああ。了解」 「えっ!?ちょっとシリウス!?シリウスくん!?何してるんだい君!リリー!!僕のリリいいいいぃぃぃぃ」 ずるずると引きずられどんどん声が遠ざかっていく。ありがとうシリウス。君は恩人だ。主にオレとリリーの。 「ところで、羽ペンはどうするの?」 「ん?あー・・・アレ使いやすかったんだよなー・・・しょーがない、しばらく我慢して、今度同じヤツ探しに店行ってくるよ」 そもそもの本題を聞いた笑いから復活したリーマスに応える。リリーはそれから二言三言交わして、呼びにきた友達と行ってしまった。同室だし毎日会ってるから別に何を思うこともないけど。 「・・・でも、羽ペンってどれもみんな同じようなものだよね?なんでリリーはのものだって気づいたの?」 「んー、同室だし毎日見てたってのが大きいんじゃね?やっぱちょっとずつ違うし」 「そっか」 「じゃなかったら―――・・・」 「愛?」 ・・・それじゃあジェームズのことを怒れないよ・・・?とつぶやいたリーマスの言葉を黙殺して、オレは予備の羽ペンを取り出したのだった。 てかなんだよみんなして。オレそんなに男らしいのかなー・・・。 ←BACK**NEXT→ 090206 |