11.




「はッ、お前みたいなヤツには糞爆弾がお似合いだぜざまーみろ!」
「貴様ァ・・・!!」
こらああああああなにやってんだバカ――――ッッッ!!!!


 階段の上から不意打ちで糞爆弾をぶっかけられたセブを見て、オレは彼に駆け寄りながら真上に向かって怒鳴った。


ふっざけんなシリウス―――――ッッ!!!!









 図書室の端っこ、一番奥。人も本当に少ない。そんな場所に、いつもセブはいる。


「セブ――っ」
「・・・・・・か」


 手にしている分厚い本からちらりと顔をあげて、オレを一瞥してまたすぐに目線を戻した。その左手の甲にある変な形、宇宙人みたいな形をした赤黒いあざを見つけて、オレは眉をひそめた。


「・・・コレ。またシリウス?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ああ」


 その名前も聞きたくない、と言うように思いっきり不機嫌な声でそう答えが返ってくる。思わず苦笑を浮かべて、オレは杖を出す。一振りで消えたそのあざに、セブも思わず本から目を離して驚きの表情を浮かべた。


「・・・。いつのまに」
「へへへ。シリウスのことならお見通しだからねー。どんな呪いを使うかも使えるかもなんとなく読めるし、先回りして解除呪文いろいろ勉強してんだ」



 勉強時間が倍にかかってそれなりに大変だけど、苦ではない。それに主にジェームズが率いる「イタズラ」にもオレはちょくちょく参加してるから傾向と対策がわかる、ということはある意味特権でもある。


「ごめんな、セブ。でもイタズラを受けてるのはお前だけじゃないから、あんまり怒んないでくれよ。・・・・・・だめ、かな・・・?」


 そりゃシリウスはちょっと度が過ぎてるけど。

 最近分かったことだけど、シリウスはスリザリンを、異常に嫌っている。嫌うなんて生易しいもんじゃない、あれは、多分、憎悪。スリザリン生と絡むと、必要以上に食ってかかるのが彼だ。スリザリン生を見るときの暗い目、憎々しげな表情。ことあるごとにケンカも起こすし、喜んでケンカには参加するオレやジェームズが、リーマスやピーターと一緒に慌てて取り押さえることもあるくらいだ。まるで発火寸前の爆弾のようで、すごく、危なっかしいところがある。

・・・なんでかは、まだ分からないんだけれど。


 とはいえ他の生徒へのイタズラに関しては可愛いものだし、笑って済ませられる程度だ。そもそもイタズラってものはそういうものだろ?

 オレも参加してることだし、と言って見上げると、しばらく無表情な顔が向けられてから、ふいと顔をそらして彼は「限度を考えろ」とぼそっと呟いてから再び本へ視線を落とした。

 ・・・コレって承諾?


「やったっ!セブありがと!でもオレ、頑張ってお前への(度を過ぎた)イタズラは回避させるからな!約束!!」
「あっ、バカ・・・・・・」


 勢いで飛びついて叫んだ瞬間、背後に突然恐ろしいオーラが出現する。だれかを確認するまでも、ない・・・。


図書室で騒ぐんじゃありません―――――――――――――――――ッッ!!!


 謝罪の言葉を叫びながら、オレはセブに引っ張られて図書室から逃げた。それから冷ややかな目で突き刺すように見られる。


「ご、ごめん」
「・・・お前は・・・・・・」


 はぁ、とひとつ溜息をついて、仕方ない、という風に歩きだす背を、オレは慌てて追った。セブは歩くのが結構速くて、いつもちょっとだけ小走りになる。けど、彼はいつもそれに気づくと、ちゃんと歩幅を合わせてくれるのだ。うん、優しいと思う。


「っ」
「ふべっ!?」


 にしたっていきなり立ち止まられちゃあ困るわ。

 無様な声をあげて、立ち止まったセブの目線の先を見る。そこに立ちふさがる面々を見て、オレは大きなため息をついた。


「おや!じゃないか!一体何をしていたんだい?」
「ん?図書室で喋ってて追い出されて、歩いてただけ」
「・・・から離れろよ」
「ッだから!」


 思いっきりケンカ腰のシリウスに向かってオレは口調を荒げる。そのまま駆け寄りざまに右ポケットに入っていた百味ビーンズを電光石火の早業で取り出し、シリウスの口に5、6個放り込んだ。その瞬間、剣呑だった彼の表情が一変する。真っ赤になってから真っ青になって、口元を手で押さえたまま涙目で声にならない悲鳴を上げた。


―――――――――――ッッッッッ!!!???
「えッ・・・何だいシリウス・・・そんなにひどい味だったのかい?」
「今のって、百味ビーンズ?」
うわあ!こんなところで吐かないでよ!?


 ジェームズが呑気に首をかしげピーターが呆然とつぶやきリーマスが悲鳴を上げる。そして当の本人は口元を押さえたまま何も言わない。とにかく涙目で首を振っているだけだ。


「フッ・・・見たか、これこそ秘技・百味ビーンズ悪味セレクト
「そ、れはまさか・・・」

 
 後ろで見ていたセブも青くなる。ふふふ。そうだ。


「列車内でセブに食べさせたのも同じだよ☆」
「・・・・・・」

 
 セブはたしか苔だっけ? さすがのセブも同情の色をその表情に浮かべて、シリウスを一瞥する。さて。今回はどんなんだろう?


「・・・。聞いてもいい?百味ビーンズ悪味セレクトって・・・何?」


 自分に倒れこんできているシリウスを迷惑そうに支えて、リーマスがこっちに向かってそう言った。だからオレは素直に答える。


「百味ビーンズのなかから最悪の味だけをセレクトして口の中に放り込む技。」
「まんまだね」
「うん」


 ヒネる必要ないじゃん。


 よろよろと顔を上げたシリウスは、本気で涙の跡が顔に残っていた。真っ青な顔のままオレを睨む。おーおー。


「てめぇええええ!」
「はいちなみに何味?」
キムチとヨーグルトと納豆とくさやとチーズ・・・もうあとはわからねぇ・・・」
「・・・・・・・・おー見事に発酵食品」


 面白そうなジェームズの声に、シリウスは味を思い出したのか、再び青くなってまたリーマスの肩に顔を押し付けた。そしてリーマスは本気で嫌そうに身を引く。そらそんなところで吐かれたらたまったもんじゃねぇよなぁ。


「ほら、な!セブ!」
「・・・なんだ」
「イタズラは回避させるって、言ったろ?」
「・・・・・・」


 面食らった表情のセブを見て、オレは満足げに笑った。














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090126