――――セブへ


 フクロウが落としてきた手紙の筆跡は見慣れたあの子のもので。
 僕は少し躊躇いながら、封筒を開けた。




 116.




――――直接呼んでも、来てくれないんだろ?セブ。


 そんな滑り出しから始まった手紙。躊躇いながら、何度も書き直したんだろうな、とそんなことが伝わってくるような文章で。我知らず自然と笑みが浮かんでいた。

 あんなことがあった後だというのに。

 ズキリと心臓が鈍く痛んだ。リリーの冷たい目が忘れられない。


――――オレには、セブが求めているものは分からない
――――だけど、信じてるから。
――――オレとセブは、ずっとずっと友達だって、信じてるから。


 たったそれだけの短い文章は、最後に「」とサインされ結ばれていた。普段、手紙なんか書かないだろうから、きっと本当に書くのに苦労したのだろう。

 これでいいのだ。
 きらきらと輝く太陽が昇るために夜が必要ならば、それでも構わない。
 闇の中にいることでその輝きを守れるならば。


 たとえ誰にも理解されずとも、構わない。





 *





「夏休み中にOWLの結果が届くんだよな?」
「嫌なことを思い出させないでよ・・・」


 リーマスが複雑そうな顔でシリウスを非難する声を上げた。ピーターが蒼い顔で俯く。でも今からそんなこと心配したってしょーがないじゃんか!オレは苦笑しながら荷物を列車に詰め込んだ。まずは夏休み!楽しもうぜ!


「今年の夏も、シリウスはジェームズの家に帰るのか?」
「ああ。また世話になっちまうけど。でも今、叔父のアルフォードが支援してくれててな。来年には一人暮らしを始めるつもりなんだ」
「へえ!よかったな!」


 笑顔のシリウスは少し嬉しそうだ。ずっとジェームズの家に居候っていうのも、さすがに肩身が狭かっただろうし、よかったんじゃないだろうか。荷物を乗せ終わって、空きコンパートメントを探してうろうろと歩く。あ、空いてる。ラッキー。


はやっぱりアオトさんと一緒にいるんだよね?」
「うん。でもなんか、アオト兄が最近、やたら忙しそうだからなー。一人で留守番することが多くなるんじゃないかな、たぶん?」
「そっかあ。大変だねー」


 『死喰い人』の活動が活発で、それに伴い『闇祓い』の仕事は増えていく。最前線で戦ってるアオト兄の仕事が多いのは明白だった。それに文句を言うつもりはない。久々に家に帰るんだし、ちゃんと掃除とかしよう。暇な日が多くなると思うし・・・そうだなぁ、宿題もちゃんと計画的に進めれば終わるかなー。




 ・・・・・・・なんて、オレは思ってたわけだけれど。




 実際に夏休みが始まって、オレの目測は非常に甘かったことが判明した。




 駅でオレを迎えてくれたアオト兄から飛び出してきた言葉は、オレが予想だにしなかったことで。だけどジェームズとシリウスは嬉しそうに目を輝かせて、リーマスは心配そうに眉を下げて、ピーターは怯えたように肩を縮めた。


「闇祓いの訓練に参加してみないか?」




 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?













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