第21問 マンティコアの撃退方法を述べよ なんだっけ・・・?真剣に羊皮紙を睨みながら、オレは頭を抱えた。第10問、狼人間を見分ける5つの兆候を答えよ、は楽勝だったんだけどなあ・・・。 114. フリットウィック先生の手により解答用紙が回収される。大きくため息をついてオレはその場に突っ伏した。終わったー!あとは変身術の試験だけだ。とりあえず、ここまではまずまずの出来だったと思う。後ろで試験を受けていたシリウスに頭を小突かれて、見上げるとニヤッと彼は笑った。この余裕、ムカつく。 「どうだった、」 「6、21、33問が不安。でもまずまずかな」 「ああ、33ってレプラコーンのやつだろ?アレはオレも合ってるか謎だな」 頷いてひとつ溜息を返し、荷物をまとめて席を立つ。ジェームズの方へ歩いていくシリウスを追って、リーマス、ピーターとも合流する。ちらりと視界の端にセブルスが入り込んで、オレは後ろを振り返った。彼は試験問題用紙に視線を落としたまま歩いている。ちらりと顔を上げた瞬間目が合って、だけどふいとそらされた。・・・うん、本当に、どうしちゃったんだよ、セブ。 あんなにあからさまに避けられるとオレだって寂しいんだ。だけど、決定的に拒絶されることが怖くて、直接会いに行けなかった。少し前のオレなら、そんなことまで気にしなかったはずなのに。 「、なにやってるの?行こうよ」 「ああ、ごめん」 リーマスの不思議そうな声にこたえて、オレは慌てて4人を追っかけた。女子学生が興奮した声でテストについて語り合いながら横をすれ違っていく。 「ムーニー、第十問は気に入ったか?」 「ばっちりさ。狼人間を見分ける5つの兆候を挙げよ―――いい質問だ」 「全部の兆候を挙げられたと思うかい?」 ジェームズがわざとらしく心配そうな声を出す。リーマスは冷ややかな笑みを浮かべてひとつずつ指を折り始めた。 「そう思うよ。1、狼人間は僕の椅子に座っている。2、狼人間は僕の服を着ている。3、狼人間の名はリーマス・ルーピン」 ドッと笑いが起きた。オレも思わず吹き出して、持っていたノートを落っことしそうになって焦った。それは考え付かなかった!そんな中、ひとりだけピーターは隣で不安そうに眉を寄せる。 「僕の答えは、口元の形、瞳孔、ふさふさの尻尾。でも、そのほかは考え付かなかった―――」 「おいおい、ワームテール、おまえ、馬鹿じゃないか?一か月に一度は狼人間に出会ってるじゃないか」 「仕方ねーよ。そんなに気にしてないもんオレも」 「パッドフット、ソーラ、小さい声で頼むよ・・・」 リーマスの声にごめん、と返してからオレはふとカバンのなかに入れていたはずの変身術のノートが無いのに気が付いた。あれ?試験場に置いてきたのかな・・・。次の試験は変身術だし、アレがないと死活問題だ。立ち止まったオレに気付いた4人がオレを振り返る。 「どうした?」 「んー、忘れ物してきたみたい。ちょっと見てくる」 「じゃあオレらは湖に行ってるぞ」 「うん!」 頷いて別れる。試験場に戻る途中で、大きな箱をふよふよと浮かばせながら運ぶフリットウィック先生に遭遇した。先生はにこにことオレを見る。 「おやミス・!どうしたのかな?」 「先生、会場にノートの忘れ物とか無かったですか?」 「ううん、どうだったろうか―――見なかったと思うよ。忘れ物かな?」 「はい」 オレを見上げて先生は優しく笑う。なんだろう、と目を丸くしていると、先生は声を落としてそっと囁いた。 「呪文学の試験の答案をちらりと見せてもらったけど、よくできていたよ。試験官は私ではないから確かなことは言えないが―――応援しているよ。ミス・。ここだけの話だけど、君の父親と私は同級生なんだ」 「え!?」 「ウォルスとは仲が良くてね。異性から人気のある彼が、一人の女性を真剣に好きになったのはあれが初めてのことでね。よく相談に乗っていたよ」 「・・・そうなんですか」 そんな話を聞くのは初めてだ。父さんと母さんが盛大な駆け落ちカップルだってことは知っていたけれど、フリットウィック先生が父さんと同級生?知らなかった。懐かしそうに笑って、先生はオレに優しい目を向けた。 「あんなことになってしまったけれど、ウォルスも、千鳥も、アオトと君の幸せを一番に願っていた―――頑張って、夢をかなえるんだよ」 「はい!」 思いがけない声援に嬉しくなる。ふわふわとした感覚に少し興奮しながら、先生が去っていく後姿を見送ってから試験場に引き返した。思った通り、自分が座っていた机の中から目的のものを無事発見する。よかった、そりゃ勉強はしてあるけれど直前にノートを見返せるかどうかは大きく違う。なによりこのノートにはリリー直伝の暗記フレーズがいっぱいに詰め込まれているのだ。本当に良かった・・・! さて湖に向かおう、とオレは少し駆け足で廊下を進んだ。だけど、なんだか湖の方が騒がしい。嫌な予感が足を急がせる。そして、 「何やってんだ!!」 まだ少し遠いのに、吠えたオレに周りの群衆がギョッとして道を開けた。宙に浮かぶセブルスは灰色のパンツを剥き出しにして、白い脚が頭上高く揺れる。怒った顔のリリーがオレを振り返り少し安堵したように一瞬表情が緩むけれど、再び瞳を燃え上がらせてジェームズを睨んだ。 「降ろしなさい!」 「承知しました」 芝居のかった口調で魔法を解いたジェームズに、セブルスは瞬時に立ち上がり杖を構える。だけどその瞬間、今度はシリウスの声が朗々と響いた。 「Petrificus Totalus!」 「彼に構わないでって言ってるでしょう!」 「シリウスふざけんなてめぇいい加減にしろ!!」 セブルスが転倒した瞬間、リリーとオレの怒りが爆発した。杖を構えるリリーの横に並び、オレは怒りのままに二人に杖を向ける。 「おや、ソーラまで。君たちに呪いはかけたくないんだ」 「それなら呪いを解きなさい!」 「やるならやってみろよ。これ以上セブに手を出すなら、容赦しない」 ずーっと言い続けた。5年間、ずーっとだ。セブと仲が悪いのは知っている。けれどセブはオレの大事な友達だ。それもずっとずっと言い続けたはずだ。なのになんで、いまだにこんなことになってしまうんだ。怒りに燃えるオレたちに、諦めたようにジェームズは深いため息をついて、反対呪文を唱えた。 「ほーら、スニベルス。とリリーが居合わせて、ラッキーだったな」 「あんな汚らしい『穢れた血』と『血を裏切る者』の助けなんか、必要ない!」 瞬間、雷に打たれたようにオレは思わず杖を取り落した。え?いま、セブルスが、セブは、なんて。同じように息をのんだリリーは、だけどすぐに我に返ると見たことのない冷たい目をしてセブを睨む。 「結構よ。これからは邪魔しないわ。それに、スニベルス、パンツは洗濯した方がいいわね」 「リリーとに謝れ!」 ジェームズが吠えた。だけどリリーは、ジェームズを睨みつけ怒鳴る。 「あなたからスネイプに謝れなんて言ってほしくないわ!あなたもスネイプと同罪よ!」 「えっ?僕は一度も君のことを――――なんとかかんとかなんて!」 「かっこよく見せようと思って、箒から降りたばかりみたいに髪をくしゃくしゃにしたり、つまらないスニッチなんて見せびらかしたり、呪いをうまくかけられるからといって気に入らないと廊下で誰彼なく呪いをかけたり―――そんな思い上がりのでっかち頭をのせて、よく箒が離陸できるわね。あなたを見てると吐き気がするわ!」 「リリー・・・、リリー!待って!」 叩きつけるように叫び、そのまま足早に駆けていくリリーの後姿を見て、オレは慌ててそのあとを追いかけた。更に後ろからオレたちの名前を呼ぶ声がしたけれど、いまはそんなことどうでもいい。あんなに泣きそうなリリーの声、ほっとけるはずが無かった。 ←BACK**NEXT→ 130324 |