「・・・メリークリスマス、アリア」


 仕事だから帰ってくるんじゃないと妹には言ったくせに、オレは一人で家にいた。気を利かせて席を外したムーディには感謝している。写真の向こうで幸せそうに笑う妻を見ながらワインを開ける。

 あの日、あの時間、家にいなかったことをあんなに悔やんだことは無い。

 きっとそう言うと彼女は顔を真っ赤にして怒るんだろうな、なんて思う。同時に両親の怒鳴り声が聞こえてきそうだ。いい加減にしっかりしろ、と。


「わかってるよ・・・大丈夫だから」


 大丈夫。まだ、守るべき存在がいるから。


 その日、オレは久しぶりに酔いつぶれて、翌朝来たムーディに介抱されることになってしまった。




 112.





「出来た・・・!!」
「出来た!!」
「「「やった――――――!!」」」


 最後の一人であるピーターが、ようやくアニメーガスに成功した。興奮して顔を真っ赤にするピーターと、飛び跳ねるオレ。満足げににやにや笑うシリウス、ピーターとハイタッチするジェームズ、そしてふわりとリーマスは笑った。これでようやく全員成功だ!


「もう、お前を一人にはしないからな」
「・・・うん」
「ああもう、お前は泣くなよ!」


 シリウスの言葉に頷いたリーマスの目から、ぽろりとひとつ涙がこぼれた。がばりと抱きつくオレを抱きしめ返して、リーマスは何度も何度も頷いた。




 凛々しい牡鹿の、プロングズ。
 闇色の黒犬、パッドフット。
 銀色の狼、ムーニー。
 小さな鼠の、ワームテール。
 空を翔る翡翠、ソーラ。




 この4匹と1羽は毎月のように夜の森や叫びの屋敷で騒ぎ、ホグズミード村でしばらく話題をもちきりにしたのは言うまでもない。犯人のオレたちにしてみれば、最高の夜だったわけだけれど!




 *





「あれ、、もうすぐマクゴナガル先生と進路面談の時間じゃないの?」
「えっ?あっ、忘れてた!」


 リーマスの声に慌てて立ち上がる。OWL試験が近づいた5年生は、各寮の寮監が進路面談を行ってくれるのだ。どうやら名前順でやってるらしくて、シリウスはもう終了した。なんだかしかめっ面で帰ってきたのがこの前のことだ。慌てて談話室を飛び出して、先生の部屋にたどり着く。ジャスト!よかった!
 息を整えて、オレはドアをノックする。


「先生、入ります」
「いらっしゃい。さ、ここにお座りなさい」


 きびきびと指示する先生に従って、先生の前にある椅子に腰かけた。いくつもの資料が整頓されて積み重なっている。


「さて、。この面接は、貴方の進路について話し合い、6年目、7年目でどの学科を継続するかを決める指導をするためのものです。卒業後、なにをしたいか、考えがありますか?」
「ええっと・・・」


 渋っていると、マクゴナガル先生はひとつの資料を取り出して机の上に置いた。


「ウェールズの公式クィディッチチームからの案内書です。、貴方には有能なクィディッチ選手としてのスカウトが来ています」
へっ!?


 スカウト・・・スカウトぉ!?驚いて間抜けな声を出したオレを気にもせず、先生は淡々と説明を始めた。


「女性のチームです。、あなたが希望すれば私が推薦書とともに提出しましょう。なにも、今すぐ決めろとは言っていません。進路の一つとして用意されているだけです」


 ぱくぱくと口を開けたり閉めたりしていると、先生は呆れた顔で続けた。ちょっと衝撃が落ち着いてくると、なんだかとっても現実感が無かった。けれど、クィディッチねー・・・好きだけどさ。大好きだけど、職にするようなことではないというか。そっちでずっとやっていけるとは思わない。なによりもオレ、ノーコン改善出来てないし。ノーコンのクィディッチプレイヤー。いやいや、駄目だろ。


「ウーン・・・いや、とりあえずそんな感じはしないです」
「そうですか。では、それ以外に何か希望はありますか?」
「ええと・・・、闇祓いは、考えてみたんですけど」


 父さんも母さんも、ついでにアオト兄もみんな揃って闇祓いだ。そういえば。アオト兄なんかはいまも前線で杖をふるっているくらいだ。オレにとって一番身近な職業だといえる。一番身近で、一番憧れの職業だ。


「それには、最優秀の成績が必要です」


 にこりともせずに先生は淡々と続ける。ですよねー!


「確かに、家は代々優秀な闇祓いの家系です。中でもあなたの父、ウォルス・は非常に力のある魔法使いでした―――加えてマメルス、グラディウス、アレス・・・出身の魔法使いは名を遺しています。また、千鳥も大変優秀な呪術師でした――――また、アオトは今も最前線で活躍している魔法戦士と言えるでしょう。そう考えると、である貴方が闇祓いを志望するのはごく自然かもしれません」


 つくづくオレの家族ってすごいんだなぁ。のんきにそう聞いていると、先生はなぜか眉をぎゅっと寄せた。


「ですが、先ほども言ったように、最優秀の成績が必要です。ちなみにアオト・は全科目首席で卒業ですよ」


 ・・・・・・。分かってる。
 

 きびきびと説明をする先生の言葉をまとめると、要するに、まずは目の先のOWLで、変身術、魔法薬、呪文学、防衛術、・・・とにかく、5科目以上で「E/期待以上」を取らなければならないらしい。

 変身術はアニメーガスの練習のおかげでメキメキと力をつけているし、呪文学・防衛術は得意科目だからよし。魔法史と薬草学・・・は必死で覚えよう。天文学と占い学は母さんからの知識を復習するとして、問題は魔法薬だ。アレまじどうすんの。セブに助けを乞うにも、最近めっきり姿を現してくれない。寂しい。

 難しいのは分かってる。だけど。


「・・・先生、オレ、ヴォルデモートは許せない」


 ぽつりと話し始めたオレを見て、先生は真剣な目で先を促してくれる。


「家族を殺したあいつは絶対に許せない。だけど、同じくらい自分が許せないんです」


 耳に残っている哄笑は、思い出すだけで背筋に悪寒が走る。新聞でその名前を見るたびに頭の芯が熱を持ったように痛くなる。だけど、なによりも、自分自身が許せない。誰も救えなかった自分が。


「もっと強かったら助けられたかもしれなかった。もっともっと強かったら、逃げなくて済んだかもしれなかった」


 父さんと母さんはオレと身重のアリアさんを守るために立ちふさがった。せめて一緒に戦うこと位できたかもしれなかった。少なくとも、アリアさんだけは助けられたかもしれなかった。もしも、なんてどれだけ考えても意味なんかないけれど、それでも。あのとき何か、できたんじゃないかって。


「・・・わかっています。、貴方がそう決めているのであれば、私は尽力しましょう。応援していますよ」
「・・・・・・はい。ありがとうございます、先生」













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