「目撃?」 「ああ。店のおっちゃんが見てたらしいぜ・・・怪しげな黒い集団をな」 「黒い集団、って・・・」 「で。特徴を聞いてみたんだよ。なにか覚えてることは無いか、身体的特徴とかをな。そのうちの一人が、」 そこまで言って、シリウスは自嘲的な笑みを浮かべた。 「オレにそっくりだったんだってさ」 109. 「シリウスとそっくり?・・・って、もしかして」 「リーマスもジェームズもピーターも、一回会ったことあるよな」 頷く僕らに対して、リリーとディゴリーはぽかんと首をかしげている。直接的に言葉を交わしたのは一度だけれど、校内でなら何度か見たことがある。ジェームズが思案気に首をひねりながら口を開いた。 「レギュラス・・・だったっけ?君の弟だろう?」 「レギュラス・ブラック。オレと違って、期待の息子だよ。オレが家を飛び出したから、たぶん跡取りはあいつになるんだろうな」 「その子が怪しいってこと?」 僕の言葉に、それはまだわからない、とジェームズは首を振った。 「けれど関係はあると思った方がいいね。どうするんだい、シリウス」 「あいつが関わっているなら、数人が動いているだろうな。スリザリンでも徒党を組んで動いているみたいだから。最悪のパターンはリーマスが予想したように、去年のクィディッチでの犯人と家の事件の犯人と今回の犯人が同じ場合だろ?さすがに一家襲撃事件とは違うだろうけど、クィディッチの犯人とは一緒の可能性が高い気がする」 「ということは今回の犯人がもし君の弟なら」 「ああ。あのときの犯人もあいつらだ」 「レギュラス・ブラック・・・レギュラス・ブラック・・・あぁ!思い出したわ!」 「リリー?」 突然大声を上げたリリーを振り返ると、彼女は真剣な顔で口を開く。さすがのジェームズも空気を読んだのか静かなままだ。よかった。 「さっきから、どうもどこかで聞いたことがある名前だと思ったのよ!セブルスといつも一緒にいる子だわ!」 「リリーの口からあいつの名前なんてききたくなっ」 「黙っててくれるジェームズ?それで?」 前言撤回。リリーのことになるとやっぱりジェームズはうるさい。無理やり黙らせてから、リリーの話に耳を傾ける。要するに、スネイプに懐いてるらしく、リリーが彼と話をしているとしょっちゅう登場して「穢れた血と話をするなんて」といい顔をしないことが多く、印象に残っていたらしい。 「今回、あなたたちに声をかけられる前に、誘ったのよ、私。彼を、ホグズミードに」 「スニベルスをかい!?スニベルスとホグズミードに来るつもりだったのかいリリー!?」 「いいからジェー、お前は本当に黙ってろ」 「だけど断られてしまって・・・大事な用があるからって」 大事な用?リリーは思案気に首をかしげる。 「『僕はあいつらを止めたいんだ』って、言ってたのよ。問い詰めたんだけれど答えてくれなくて。もしそれが、に関わることなら―――セブルスがなにか知ってるかもしれないわ」 スネイプ、そしてレギュラス・ブラック。なにが起きているのだろう。考えながら僕は、魔法で黙らせたジェームズがもがもがとなにかを言いたげに口を開いているのを見て、少し迷いながらも魔法を解いた。ぷはぁ、とジェームズは息をつく。 「スニベルスなら僕が見かけたよ。シリウスたちを追っかけてたからちょっかいは出さなかったんだけど。そういえば随分思いつめていたような顔をしていたなあ」 「え!?どこで見たのよ!!」 噛みつかん勢いで首根っこを掴まれて、でもどこか幸せそうな顔でジェームズは言った。 「アッサール薬専門店・・・あの怪しげな薬屋の窓から、ちらりとね。」 * 「けほっ、まったく・・・なんて埃っぽいんだ」 そっと薬棚の陰から覗きながら、僕は一人愚痴を零した。薬屋が埃っぽくていいのか?全く、何故わざわざ僕がこんなことを、と恨みがましく視線の先の数人を睨む。だけど、知らないふりはできなかった。冷酷になりきることなど、僕にできるのだろうか。・・・そんなことを自問自答している場合ではない。 「本当にあいつがそうなのか?」 「そのはずだ。家の系譜は調査済みだしな。何度も言わせるな」 「だけど、『あの方』に差し出して、間違っていたら・・・」 「大丈夫だって!!」 スリザリンのなかでも異色のその集団は、ブラック家の次男であるレギュラスを含み幅広い学年で構成されている。ルシウス・マルフォイがその筆頭で、僕も誘いを受けた。おそらく僕はその手を取るんだろう。少しずつ少しずつ、闇に沈んでいくことを実感する。 僕が今回の彼らの動きを知ったのは偶然だ。レギュラスが得意げに大きな仕事を預かった、『あの方』に褒められるとテンションが高く、さりげなく聞き取った結果、を攫うという計画の全貌が見えた。曰く『あの方』は≪移動者≫とかいう能力者を手元に置こうとしており、がその能力者だと見当がつけられているそうだ。 実際、を攫う前に阻止したかったのだが・・・あまり深い計画は読み取れず、結局僕はレギュラスを尾行することだけにとどまった。結果として言うと、彼は実行犯ではなく主に指示だしをしているようだった。メンバーから察するに4年生、レギュラスの同期が多い。ルシウス先輩らを出し抜く目的もあったのだろう。 さて、どうするか。の安否を確認せずに割って入ることはできず、ずるずるとここまで来てしまったのだが。 「しかし、思っていたより簡単に攫えたな。どこに放り込んであるんだ?」 「地下倉庫だ。杖も取り上げて、隣の部屋にあるから逃げられないだろう」 「・・・≪移動者≫だったら簡単に逃げられるんじゃないのか?」 「・・・・・・・・・それはそれで、ヤツが≪移動者≫の証明になるだろ。改めて捕まえればいい」 そこまで聞いて、僕はそろそろと動き始めた。 まずは隣の部屋、だな。 ←BACK**NEXT→ 130310 |