「・・・・・・んん」 ゆっくりと体を起こしながら、オレは視界が真っ暗なことに気付き頭の中が疑問符でいっぱいになる。なんだこれ?なにが、起きた? 108. ジェームズたちに探されていることなんてつゆほども知らず、オレはゆっくりと周囲を見回した。真っ暗な室内、だけどだんだん目が闇に慣れてきたのかひとつひとつの物体が輪郭を持ち始める。箱?が多いのかな?・・・なにこれ、倉庫? 「うーん・・・?」 なんでこんなとこにいるんだっけ?頭を振る。徐々に思い出されてきたのは、トイレで髪飾りを直そうとしていたことだった。そこから先の、記憶がない。あっちゃー、もしかしてオレ誘拐されたの?なんのために?なんの価値があるの!オレに! (笑)って言いたいくらいにオレのスタイルは貧相だし、そういう目的でさらわれたわけではなさそうだ。だってピンピンしてるもん。寝ている間になにかされたんなら気づいてもよさそうだし(まさか気づかないほど自分はアホではないはずだ)服装の乱れはほとんどない。ふと気づいて胸元に手を伸ばすと、銀のロケットもちゃんとそのままだった。ほっと一安心。 「あっ!でも杖が無い!まじか!困ったなあ・・・」 その辺に転がっているんじゃないかと闇の中を手探りで漁ってみるけれど、それらしいものは見当たらない。それどころかなんだかよくわからないものに手が触れる。うわ!これなんだ鱗?鱗?ぎゃあああぬるぬるする!ちゃんと見えないから、余計に怖い。 なにはともあれさっさとここから出よう。そう思って、≪移動≫しようとして――― 猛烈な吐き気に襲われた。 「ふっ・・・う!?ぐ、ぅ」 慌てて喉と口を押えた。幸い本当に戻すことは無かったけれど、せりあがってきたモノが気管を圧迫して咳き込んだ。涙と冷や汗が浮かぶ。嫌だ。はやく、はやくこんなところから出たい。出たいのに。 ・・・・・・・・・・駄目だ。≪移動≫しようとすると、気持ち悪い。 「げほ、げえっ!う、えっ、ふ・・・っ、は、あ」 そういえば最後に≪移動≫したのはあの日だったっけ。そうだこんな風に真っ暗なままの家の中をアリアさんと一緒に駆けずり回って聞こえたのは下からの爆発音と叫ぶ声と嗤う声と足音とあと少しあと少し昇れば上の階にもうひとつある暖炉にたどり着いてそうだアリアさんとお腹の中の赤ちゃんを守らなきゃ守らなきゃ守らなきゃ守らなきゃ守らなきゃ守らなきゃ守らなきゃ守らなきゃそう思っていたはずだったのに母さんも父さんもそう言ってオレに任せたはずだったなのになんで伸ばした手は、 オレが伸ばした手はなにも掴めなかった。 「あ・・・、あ」 駄目だ。嫌だ。思い出す。カタカタと震えだした自分の肩を抱くようにして丸くなった。嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ、誰か。あのとき伸ばした手は空を掴むばかりだった。怖い。誰か、――――助けてって、言った、のに。 どうしてオレだけが助からなくちゃいけなかったのだろう。 「・・・・・・ごめんな、さい」 ごめんなさい。ごめんなさい。助けられなくて、オレだけ逃げて。オレだけ、が。分かってるよそんなこと。分かってるから、だから、許されたいなんて思ってないから。だからどうか、 誰か、ここから出して。 ←BACK**NEXT→ 130306 |