なんか、普通に楽しい。

 トイレの洗面台で、リリーにつけられた華奢な髪飾りをつけなおそうと外しながらオレは思った。ていうかこれつけなおさなくて良くないか?しまっちゃおうかな、落としたら怖いし。リリーの大切な髪飾りだ、失くすわけには行かない。・・・っていうか取れない!


「は!?なにこれどうなって――――」


 夢中になって髪飾りと格闘していたオレは、背後から伸ばされた腕に気付かなかった。そのまま世界が暗転する。


 ・・・・・・・・・・・・




107.





「・・・ねぇ、ピーター。がトイレに行ってから何分経ってる?」
「えと、もうすぐ20分」


 遅いだろ、いくらなんでも。
 ディゴリーまで心配そうにそわそわしだす。ここって男女兼用だっけ?出くわしたら嫌だけど、ここで何分も待ち続けるのもなあ・・・。リリーを「あっち」に行かせたことを少し後悔しながら、仕方なくそのまま動向を見守る。


「あ、ディゴリーが見に行くみたいだよ」


 ピーターの言葉に頷いてそのまま僕たちはじっとしていたけれど、焦った顔をしたディゴリーが慌てて戻ってきたのを見て顔色を変えた。二人で顔を見合わせて、飛び出す。驚いた顔をしたディゴリーは僕らを見て目を丸くした。


「君たちは・・・の友達の・・・悪戯仕掛人の」
「自己紹介はいらないみたいだね。で、は?」


 一瞬で事態を把握したらしい彼の顔に動揺が走るけれど、すぐに冷静さを取り戻して手のひらを差し出した。それを見た僕らは息をのむ。


「君たちの仕業じゃないんだろう?」
「違う。・・・僕らじゃない」
「じゃあは・・・どこへ」


 きらきらと照明の光を浴びて輝く、華奢だけどシンプルな作りの髪飾り。の金髪によく似合っていた。そんな女の子らしいものなんて普段つけていないから、余計に印象に残っていた。それが、ディゴリーの手の中にある。


「廊下に落ちていたんだ。店員に聞いてみたけど、トイレにもその周辺にもいなかった」


 どくんと心臓が嫌な音を立てる。なんだろうこの嫌な予感は。頭の中に駆け抜けるのは、去年のクリスマスに殺された彼女の家族のこと、クィディッチで仕掛けられたブラッジャー、そしてジェームズのあの言葉。




――――闇の力が徐々に強くなっている。僕の父の言葉だけどね。君らだって知ってるだろう?そこに≪移動者≫の後継者―――やつらが狙うのは君の能力だ。≪移動者≫なんてスパイや暗殺者とかに最適じゃないか。おそらくがその≪移動者≫の血統だと、いやがその後継者と知れたら、きっと君は狙われる――――



 
 ぞっ、とした。
 ただの杞憂ならそれでいい。考えすぎならそれでいい。
 だけど、結局ブラッジャーに細工をした犯人も、の家族を殺した犯人も、捕まっていない。そもそも去年のクリスマスに、家が襲われたのが偶然で無かったとしたら。あの日、助かったのはとアオトさんだけだ。そう、そしてには、狙われるべき理由がある。

 は、≪移動者≫だ。


「・・・ピーター」
「え?」


 喉から零れる声は別人のように張りつめていた。ピーターの顔が緊張したように強張っている。だめだ、しっかりしろ。ふらふらとなにかにつられて出て行って、そのへんで迷子になってるだけかもしれないじゃないか。・・・がそんなことするわけないんだけれど。


「探そう。とにかく、まずは目撃証言を見つけるんだ。ディゴリー、君も協力してくれるよね?」
「ああ。もちろんだ」


 二人がうなずいたのを見て、店を出る。そこでちょうど、リリーとジェームズ、そしてシリウスに出くわした。


「おや!リーマスにピーター、そしてディゴリーだったかな?奇遇だね!」
「なんでお前らが一緒なんだよ?」
「・・・あら?はどうしたの?」


 ていうかシリウスとなんで3人でいるわけ?聞きたいのはこっちのほうだよ!だけど、そんなことに構っていられるはずもなく、ジェームズが表情を一転させ、険しい顔で僕らを見た。


「リーマス、凄い顔をしているけど・・・いったい、何があったんだい」
「・・・・・・ッ」


 落ち着こう。ジェームズの一言でそう思えた。深呼吸をひとつすると、僕は彼らに説明を始めた。








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130306