「そうなんだ!オレ、いっつも箒の柄の一番先の方に重心置いてた」
「柄を握るところを自分の少しだけ前にして体を低くした方が抵抗が無くなるし、早く飛べるんだよ」
「へーっ!そっか。オレいまね、挑戦しようと思ってるフェイントがあるんだけど・・・」




「・・・なんだか結構雰囲気いいよね」
、自分のチームの情報話さない方がイイってことは分かってるのかな・・・」


 楽しそうにクィディッチの話で盛り上がる2人を見ながら、僕とピーターは顔を見合わせてため息をついた。




 106.




 リーマスとピーターが溜息をついている頃、そんなことは知らずに僕は愛しのリリーと同席出来ていることにうきうきと心を躍らせていた。そりゃ本来の目的はシリウスと巨乳さんの見張りだけど、でもこれが僕らの初デートってことでもいいかな・・・!?肝心のリリーの意識は完全に2つ先のテーブルの二人だけどね!・・・泣かない。


「リリー、このケーキ美味しいよ?」
「うるさいわよジェームズ、黙ってて」


 さっきからこの調子だ。いや正しいんだけど。幸いなことに店はすいていて、耳をそばだてれば2人の会話は結構聞こえる。大きな植込みのおかげで近くに座っていても気づかれない。
 だけど、2人の空気は思ってた以上に険悪だった。ていうかシリウスの放つオーラが不機嫌最高潮で、まあ、原因は分かってるんだけど、それはともかく一応付き合ってる女性の前でその態度っていうのはいかがなものじゃないかい?


「ねぇ、シリウス?なんだってそんなに機嫌が悪いのよ貴方」
「うるせーよ。黙って食ってろ」
「あのねえ、せっかくのデートなのにそんな台詞、嬉しくないわよ」


 巨乳さんが大きなため息をつきながらテーブルに肘をついた。ぽってりとした赤いふくよかな唇が、不満そうにへの字を描く。


「久しぶりの婚約者とのお茶じゃない。もう少し楽しめないの?」
「元・婚約者だろ。もうオレはブラック家から勘当されてるんだ、関係ない」


 さりげない一言だったけれど驚きすぎて、僕は危うく握っていたマグを取り落しそうになった。リリーも口をあんぐり開けて、目をまん丸くして驚いている。婚約者!!?まあ、確かにシリウスはブラック家長子だしよーするにお坊ちゃんだし、家系的にはいてもおかしくないけど、でも、なんだって!?


「冷たいわね。レギュラスが寂しそうにしてるわよ」
「あいつが?まさか。あんなにオレを嫌っていたんだぞ?」
「あの子が素直になれるわけないでしょう。―――ねぇ、知っていて?貴方がブラック家を出てからのこと」


 呆れるような声で、巨乳さんは続けた。気を取り直して僕とリリーは耳を傾ける。


「レギュラスは『あの方』にどっぷりよ。最近じゃあスリザリンでも徒党を組んで動いてるみたいだし。特に貴方の家系はそれが顕著よ。ベラトリックス・・・ルシウスあたりが筆頭ね」
「『あの方』ね・・・ヴォルデモートだろ」
「何度言っても貴方はその名を口にするのね!」


 ヴォルデモート。その名に僕は思わず息をのんだ。新聞を賑わせている名前。魔法界を暗黒の闇が覆い尽くそうとしている。の家を襲ったのも、その配下『死食い人』ではなかったか。


「分かってるんでしょう?貴方の友人の家を襲ったのは、」
「うるさい!」


 シリウスの激昂に、巨乳さんは怯むことなく正面から向き合った。長い豊かなブロンドの髪を揺らし、勝気な瞳がまっすぐに彼を射抜く。


「私は貴方が好きだわ、シリウス。だけど、貴方は本当にあのグリフィンドールの友人達とこれからも一緒にいられるの?その家族を襲ったのがあなたの親戚だというのは事実だわ。どんなに疎んでも、貴方がブラック家の一員ということは変わらないのよ」
「・・・・・・・ッ」
「だから、私と一緒にいればいいじゃない、ね?」


 

「そんなこと関係ない。シリウスは僕らの仲間だ」




「ジェームズ・・・!?なんでここに」


 いてもたってもいられなくなって、僕は思わず飛び出していた。驚いたシリウスの目がまんまるく見開かれる。リリーが頭を抱えたのを目の端でとらえて知ったけれど、その事実ですら僕を止めることはできなかった。今更なにを迷っているんだろうか、この馬鹿犬は。どんなことがあったって仲間だと、そんな簡単なことをいまだに迷っていたのだろうか。――――だからこそと顔を合わせられなかったのか。


「改めて馬鹿だね君は。くだらないことでいつまでも悩んで」
「・・・ジェームズ」
「成長してないのかい?が聞いたら怒るよ」


 顔を真っ赤にして怒る少女の顔が思い浮かんで、僕は溜息をつく。それとも静かに静かに怒るだろうか。普段はすっとんで明るくてきらきら笑う彼女だからこそ、本気で怒ると怖い。


「なんなのよ貴方たち・・・!」
「全くジェームズったら計画丸つぶしだわ!ああ、ミス・マレスだったわよね?」
「な、なによ!」
「これ、シリウスの分のチップね。置いておくわ。さ、行きましょう二人とも」


 呆然とする巨乳さんに最上級の笑顔を振りまいて、シックル銀貨を数枚テーブルに叩きつけるとリリーは僕らの背を押した。そのままに店を出てから、シリウスは情けない顔をして僕を見る。


「なんて顔をしてるんだい、シリウス?―――全く、親友の僕にすら言ってないことがあったなんてね」
「・・・・・・・・・悪い」


 目を伏せるシリウスは、本気で気まずそうに声のトーンを落とした。


「オレ自身が・・・認めたくなかったんだ。あいつの家族を殺したのが、オレの家族だなんて」
「君はブラック家とは違うじゃないか。シリウスはシリウスだろう?」


 って、ならきっと言う。そうだな、とシリウスはそっと笑った。












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