ああ、イライラする。こんなに落ち着かないのなんて初めてだ。
 オレの腕にしがみついて胸を押し付けてくる巨乳女をチラリと見て、オレは気づかれないように軽くため息をついた。





 103.





「やァだ、シリウスったらなに考えてるの?私のこと?」
「ああ」
「もーぉ!」


 豊かな金髪を揺らしながら、長い長い睫毛で見上げてくるマレスは一応先輩だ。もともとブラック家で懇意にしていた相手だから面識は深いとはいえ、興味はない。ふっくらした唇に陶器のようにすべらかな肌。・・・まあ、すっげー美人だよな、わかるけどさ。

 けれどなんだか面白くなくて、ジェームズとかと一緒に悪戯を考えてる方がずっとずっと楽しかった。こいつと一緒にいる時間が増えれば増えるほどあいつらと遊ぶ時間が減っていた。まるでガキのような考えだけど。


「ねぇ、いいでしょ?」
「んー・・・ああ」
「本当ね!私、お洒落していくわよ?しっかりリードしてよね?」
「ん」


 いつのまにか今週末のホグズミードでデートする話になっていて、別にどーでもいいけど、とオレは返事をする。男子も女子も関係なく飛んでくる嫉妬と羨望の眼差し。そんな周囲に、マレスは得意げに視線を投げた。これ見よがしに更に腕を絡めて来て、正直、面倒臭い。

 彼女の話を聞き流しながら、そのまま視線を中庭に向けた。ちょうど向こう側の角の影から、見知った金髪の少女が顔を出す。少し困ったような顔をしながら話しているのは、あのハッフルパフの上級生だ。エイモス・ディゴリーだっけ?どう見ても下心があるだろあれ。そういえば結局あいつ、告白はどうしたんだろう。断ったんだろうか。寝室でジェームズがなにか言っていたような気もするけれど、あまり覚えていない。


 ここじゃ聞こえないけれど。ディゴリーの言葉に、は控えめに笑った。普段は男みたいで、あちこち走り回ってるときには絶対にしないような表情だ。太陽みたいに笑うあの子しか、オレは知らない。




 ああ、駄目だ。イライラする。




 不意に立ち上がったオレに、驚くようにしてマレスは慌ててくっついてきた。あの2人の姿を視界に入れないようにとその場を移動する。そしてオレは、そこで不快な眼差しを浴びて、一気に頭に血が昇るのを感じた。





*





「えっとあの、その、ありがとう・・・・・・」
「喜んでくれたのならよかった。じゃあまた後でね、


 にこりと爽やかな笑顔を浮かべてから去っていくディゴリーから渡されたクッキーの包みを手に、オレは途方に暮れていた。とりあえず礼を言ったは良いものの、なんだこれ?こうまであからさまにアピールされると面倒なんだなぁ。ジェームズよかマシだけど、とオレは改めてリリーに同情した。5年間もよく耐えてるなあ。


「クッキーかあ。リーマスが喜びそうだなぁ」


 これを渡すためだけにわざわざオレを探してくれたのか。ちょっと申し訳なくなりながらもオレは包みを見ながらひとり呟いた。お菓子だったら結構みんながくれるんだけど、(クィディッチの試合後とかは特に)こんなに綺麗に包装したものは珍しい。鮮やかな空色のリボンが可愛い。

 ディゴリーは優しい、と思う。なんでいまだにオレに告白したのかもよくわからないけれど、見た目は好いと思うし、モテるんじゃないかなあ。いやほんとなんでオレなんだろ。全然わかんない。


 そんなことを思いながら中庭を歩いていると、少し向こう側が騒がしくなった。野次馬根性を発揮して走り出して、見知った黒髪が視界に入ってきてオレは息をのんだ。脳で認識する前に口から名前が転がり出る。


「シリウス!!セブ!?」


 杖を握って緊迫感を溢れさせて対峙する二人。なんだよこれなにしてんの!?仲が悪いのは分かりきっているけれどこんなに深刻な雰囲気の2人は久しぶりだ。ケンカすんなっつってんだろもー!オレは慌てて人ごみを押しのけて前に出る。


「なにやってんだよバカ2人!」


 叫んだ瞬間に閃光が爆ぜ、真っ赤な血が噴き出した。
















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130219