9. 「全く。あなたが来なかったら許可しなかったのですよ?いくらなんでも、この状況では事故が起きても私一人では対処しきれません」 「ああ、でもいいじゃないですか?生徒たちの実力も把握できるようになりますし」 「そうですが・・・、全く。サポート、よろしくお願いしますよ?」 「もちろん」 * 「負けて吠えヅラかくなよっ!」 「そのセリフそっくりそのままノシつけて返してやるよディサーダとその愉快な仲間たち!」 「愉快な仲間たちって言うな―――っっ!!」 いやいやなかなか面白いヤツらじゃん。 「ところで。きみは、実力のほどはどうなんだい?」 「ん?」 ジェームズがきらきらと目を輝かせて聞きにくる。彼のクィディッチ好きは相当なもので、オレの兄が「ホグワーツに“救世主(メシア)”と伝説を残すほどのクィディッチプレイヤー」だと知ったあと、談話室で延々と質問攻めにあったほどだ。オレはコレといって好きなチームがあるわけではないけれど、クィディッチ自体はアオト兄の影響で好きだから、別に苦ではなかった。けど翌朝まで長引いたおかげで翌日の授業は散々だった。眠かったヨちくしょー!! 「よし、んじゃジェームズ。お前にも負けないからな?」 「何を言うんだい?当たり前じゃあないか。僕だってに負けるわけにはいかないよ?」 ジェームズとオレの間に、ぴりっとした空気が漂う。二人揃ってにぃっと笑んで、箒を手にし、スタート位置に並ぶ。リーマスとシリウスもすぐ横に。例のアイツらは、何人かを間にはさんで向こう側だ。ぎゅぅっと箒を握りしめる。 「無茶しないのよ、―――っ!!!」 「READY―――― GO!!」 リリーの声と先生の合図は刹那のずれ。その瞬間、一気に空中に飛び出す。まずは一周! 髪が翻る、ローブがはためく。感じるのは風。すぐに先頭集団ができる。メンバーはジェームズ、ディサーダ、シリウス、そして3人のグリフィンドール生、ディサーダの仲間たちからは2人。そして、オレ。少し後ろにリーマス。 「なかなかじゃねーか!」 「そっちこそっ!」 横に並ぶとディサーダはそう叫んだ。風圧で目を細めながら怒鳴り返す。オレの前方にはただ一人ジェームズが。彼は先頭集団の中でも正真正銘の先頭にいる。けれど、その距離もわずか掌ほど。ほとんど並んでいるといってもいいほどだ。 「な、うあっ!?・・・てめっ、くそ――っっ!!!!」 シリウスの悲鳴、そして罵声が飛んできた。振り返ることはできないが、妨害を受けたか、ぶつかったか、とにかく彼はそうして2周目に入るかどうか、というところで先頭集団から外れていったらしい。声が遠ざかっていく。 2周目に入り、ついについてこれなくなったメンバーはどんどんと後ろに下がっていく。2周目も後半に入ると、先頭に残ったのはジェームズ、ディサーダ、そしてオレだけだった。3人ともほぼ同時に並ぶ。後方集団の声なんか聞こえない、どれくらい早いのかなんて分からない。 だけど・・・楽しくて、仕方ない。 「やるじゃん、ジェームズっ!ディサーダも!」 「そういうもなかなかじゃないか!」 「はっ、このオレが速いのはとーぜんだ!」 差はほとんどない。気が抜けない。少しでも気を抜いたら、あっという間に置いて行かれるだろう。そんな感じ。 「最後の一周よ!」 リリーの声が遠くに聞こえた。そのまま一気に加速する、だけど差はできない。 「届け!」 誰かが叫んだ。巣がもう目の前にある。だけど、3人の手が触れようとしたその時、 「ピギャア―――――ッッ!!!」 「へっ、わっ、なに!?」 「親鳥だっ!」 「ちくしょうあともうちょっとだっていうのにっ!!」 「親鳥―――――!!??」 鳥の逆襲が始まった。 「先生っ!!!ひどいじゃないですかっ!」 「ああごめんごめん。注意不足でしたね」 「僕の勝利がもう目前まで迫ってたんですよ!?」 「ふざけんなあそこで勝てたのはオレ、スリザリンの勝利だったんだっ!」 結局、親鳥にオレたちが襲われて、レースは引き分けとなった。つまりは無効。慌てて巣から離れると、気が済んだのか親鳥は、そのまま自分の巣にもどった。ただし、巣に近づくことはできなくなってしまったのだが。そこで先生が笛を吹いて、「引き分け!」の判定となったということだ。 「あー、頑張ったのにっ!」 「まあまあ。でも、いい勝負だったと思わないかい?」 「・・・認めてやろう。このオレと互角とは、いい実力だ」 「ディサーダ・・・お前、とことん上目線な・・・?」 引き分けとなった三人で軽く言葉を交わす。いい勝負、確かにその通り。ディサーダの差し出した手を握って、笑った。いいライバルの誕生、みたいだ。ディサーダもなかなかいいヤツみたいだな?スリザリンだっていいヤツはいるじゃん。 「ハッ、グリフィンドールの猿がディサーダと同等だと?侮辱もいいところだな」 ・・・・・・けど、後ろのほうからそんな言葉が聞こえてしまった。 「見たか?鳥に襲われた時の顔。情けないったらなかったな!」 「どうせアオトとかいうのも大したことないんだぜ」 「・・・・・・・・・・・あのさ」 溜息をついて振り向く。そしてオレは、自分の表情が凍りついたのを自覚した。 * 全く、この素晴らしい勝負に水を差すなんて、どういう神経してるんだい?この最高の気分が台無しじゃないか。ちらりとディサーダのほうをみると、彼も気分を害したように眉を寄せていた。うん、なかなかいいところもあるんじゃないかい? そうして、呆れたようにして振り返ったがびしりと固まったのを僕は見た。不思議に思ってその視線を追いかけて、文句を言ったスリザリンの男子生徒後方に、男性にしては長めの黒髪にすらりとした長身、しなやかな体躯を黒っぽい群青のローブに包んだひとが立っていた。飄々とした表情、細められた青い目。全然似てないはずなのに、どこかに、似ている。 「?」 みんなの視線に違和感をもったらしい男子生徒二人は、そろって振り向いた。そうしてポカンと口を開ける。沈黙が舞い降りて、その静寂を最初に破ったのはだった。 「に・・・にい・・・・・・・アオト、兄・・・・・・・・・」 「えぇ―――――――――――――っっ!!??」 この人が伝説のアオト先輩かい!?気分が高揚する。けどすぐにそれは疑問に変わった。・・・なんで、アオト先輩がここにいるんだい? 「よ。!我が妹よ」 「な、なななな、なに、してんの、アオト兄!?仕事は!?」 「仕事だよ、ダンブルドアに届け物。用が終わってお前の授業を覗いてみようかな、と」 「なに言ってんの!?そんな気軽に授業参観とかありえねえ!!」 「別に見られて困るようなことねぇだろ?かっこよかったぞ、レース」 「っ!」 さっと赤くなってぱくぱくと口だけを動かしているに爽やかに笑いかけて、それからがらりと表情を変えて、アオト先輩はとん、とスリザリンの例の二人の肩に手を置いた。二人はびくりと肩を震わせる。そしてアオト先輩は壮絶に笑う。 「ところで―――この二人はオレが大したことない、と?」 「えっ、いや、そんな、あの!」 「てめえらには聞いてねえ」 慌てて声を上げたスリザリン2名に低い声音で返し睨みつけ、(僕ははっきり見えなかったけど一気に青を通り越して白くなった二人の顔を見ればなんとなくわかる。いったいどんな顔をみたんだろう?)アオト先輩はを見た。 「へ?うん」 普通にそう返したに、二人の顔からはもう生気が感じられない。・・・まあ、自業自得ということにしておこう。 「ほう――――――・・・・・・・」 「そういえば始まる前にはに悪口も行ってたよね?空気も読めないバカとか男みたいなツラとかバカとか」 「なるほどな」 「そ、それはディサーダが」 「黙れっつってんだ」 リーマスがにっこりとほほ笑みながらアオト先輩に言った。怖い。え、普通こういう時にスッパリと言うかい!?・・・いや、言った方が面白くなりそうなら僕も言うけれど。・・・。リーマス、侮れない。隣に立ったシリウスが恐ろしいものをみるような眼でリーマスを見ていた。 「先生?コイツら借りますよ?」 「――――全く、君はいつもいつも・・・。次の授業が始まる前には解放してあげなさい」 「了解です」 「――――――っっ!!??」 声にならない悲鳴が彼らの口から洩れた。そんな二人をアオト先輩はずるずると引きずっていく。僕たちの方に笑顔で手を振り、去っていく。数秒後、この世のものとは思えない悲鳴が聞こえ、アオト先輩が戻ってくる。 「ということでじゃあな」 「なにが!?なにが“ということで”!?」 「いいじゃねーか。そんじゃ、元気にやるんだぞ」 「うぁーい・・・」 そう言ってひらひらと手を振り、最後に先生にぺこりとしてから、悠々と先輩は城内に姿を消した。 な、なんてかっこいいんだ・・・!!! ちなみに、スリザリンの二名は、発見後に何があったかを聞くと、「聞くな!」と真っ青な顔でただそれだけを言うようになった、らしい。 ←BACK**NEXT→ 090118 |