7. 「聞いてくれみんな!」 「・・・何?」 「僕は運命の人を見つけたよ!」 ・・・こいつ、何言ってんだろう。 リリーはあのチェリカだかチェルカだかなんとかいう友達とかとともに、外に遊びに行っている。いい天気だから気持ちは分かる。もちろんオレも誘われたけど、その友達のチェ・・・ルカ?がちょっと苦手なので遠慮した。なにが気に入らないんだか、いっつもケンカ売るような眼で見てくるんだよなー。にらみ返したらそらしたから大した相手じゃないけど・・・。 むしろ、ちょっぴりリリーの身が心配だ。でもまぁリリーに対してはそんな態度とっていないから、ただの杞憂だと思うけど。 それはともかく、そんなわけでオレは例の4人とともに談話室でくつろいでいた。そしてジェームズが唐突に発表した言葉。なんなんだコイツ。 「知りたいかい!?知りたいかい!?知りたいかい!?」 「いや別にいいよ?」 「ふふふふふふふそんなに言うなら教えてあげよう!」 「誰も聞きたいなんて言ってねぇよ」 「実はだね?実はだね――――」 「だ、誰?」 「!――のルームメイト、リリー・エバンズだよ!」 「お前なんかに可愛いリリーがやれるか!」 「お前は父親か!」 ぬぬ。シリウスめ、ツッコミがうまくなったな? あれから3日。 今日は初めての飛行術の授業だ。あの宣言からジェームズは「リリー好き好きオーラ」を所構わず出しまくるようになってしまい、リリーは早くもうんざりしつつあった。そりゃあんだけ人目もはばからず堂々と迫られれば嫌だろう。・・・女ごころが分かってないなー。 かといってジェームズに助言する気は全くない。だってリリーだ。ジェームズにゃ勿体ないわ!!!やれるか!! そんでもって今日。ジェームズはリリーにいいところを見せようとやる気満々で、飛行術の授業の場所、フィールドに堂々と立っていた。その横でシリウスもうんざりだ、と言わんばかりの顔で溜息をついている。リーマスは既に「我関せず」の状態で、ピーターはとりあえずおろおろしている。おろおろするのが最早普通だ。この子。・・・何かに似てる。この震え具合。・・・チワワ・・・? 「あれ!?リリーはどうしたんだい、!?」 「んー?なんだっけ、またあのチェ・・・チェ・・・・、チェ・○ンマン?」 「だからなんでだよ」 「とにかくまたチェなんとかさんたちと一緒に授業に来ると思うよー」 「ええっ!そんな!!!!連れてきてくれって頼んだじゃないかー!」 確かに頼まれた。さっきの魔法史の授業中にコッソリと。・・・でも、記憶が曖昧なのだ。そのあと寝たらしい。しっかりと顔にラクガキがされていたから、それは確実だ。額に書かれた第三の目、頬にある猫みたいなヒゲ、まぶたの上の第四、第五の目。くっそおお不覚! 「お前らの落書き落としてたらそんな時間なかったわ!」 「そのまま来ればいいじゃないかー!!」 「せっかくのオレの力作を消しやがったな!!」 「誰がそんな面下げて授業に出るかこの黒スケ!」 誰が黒スケだ!と噛みつくシリウスとまいがっ!と頭を抱えるジェームズを無視して、リーマスの心配そうな瞳がこっちを向いた。 「もしかして、・・・、リリーとあまり仲良くないの?」 「へ?ううん、そんなことないって。朝一緒じゃん、いつも」 「そっか、そうだよね」 「え?うん。そうそう」 どうしたんだリーマス。なんか変だ。 「あ、セブ――――っ!!」 そうだ今日はスリザリンと合同授業だ! フィールドに入ってきたセブルスに抱きつきに行くために、オレは四人の間をすり抜けると芝生を蹴った。 「セブだ!セブだーっ!」 「なんなんだお前は!暑苦しい重い動きにくい!ばかもの!」 「・・・・・・っヒドいセブ・・・っ!私は遊びだったのねっ!」 「黙れ誤解を生む発言をするな――――――!!!!」 やっぱ楽しいわセブ・・・。 こう、見事に期待通り、いや期待以上の反応が返ってくると嬉しい。真っ赤になって怒るセブと対照的に、こっちは多分めちゃくちゃニヤけてるんだと思う。だって頬の筋肉がゆるんでる。うへへへへー。・・・ちょっと、オレ、危ない? しぶしぶ腕を解放してやる。くそぅ、絶対またしがみついてやる。 「セブルス?なんだよそいつ。グリフィンドールじゃねえか」 「!・・・ディサーダ」 「グリフィンドールの猿が我がスリザリンに何の用だ?痛い目に会いたくなければ戻れ。この身の程知らずの血を裏切る者め」 「っ、ディサーダ」 「そういやコイツ、あのか。男みてぇなツラしやがって、本当に女かよ。ハッ、そういや入学早々吠えメールを貰ったあのバカか。お前にケガさせたらあのなんとかいう兄貴が飛んでくるんだっけか?どーせお前とおんなじようなバカなんだろ?」 「ディサーダ!」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・取り消せ」 「な・・・っ!?」 「オレは確かにバカだ。お前に言われなくても充分すぎるくらい分かってる。けど、アオト兄はバカじゃない。だから取り消せ」 「おいっ、!?」 不穏な空気を感じたらしいジェームズたち四人が、慌てて駆け寄ってくるのを感じる。けど振り向かない。前に出たディサーダとかいう身長がやたら高いそいつの肩を掴んで止めようとするセブルスが見える。でも、オレはやめない。 「取り消した方がいい。それがお前の身のためだ」 「なんだお前。オレに喧嘩売ってんのか?いいぜ、買ってやるよ」 「そうか」 さっと杖を構えたそいつ。「!」とか叫ぶリーマスの声が聞こえてくる。けど無視してオレも杖を出そうとした瞬間。 「静かにー!授業を始めますよ!?各寮ごとに一列にお並びなさい!」 「・・・命拾いしたな」 「どっちが」 嘲笑を浮かべてディサーダは、偉そうな風に帰っていく。セブがその背を慌てて追って、その途中にオレを振り返った。痛みを含んだような顔に、オレは思わず手を振った。お前がそんな顔する必要ないだろ、ばか。それからセブはそのままスリザリンに戻っていった。 「このっ、バカ!」 「いだっ!」 「真正面からスリザリンに飛び込んでいくバカがどこにいるんだ、どこに!」 「ここにいたね。ここに」 「大丈夫?・・・?」 「全く、肝を冷やしたよ。まぁ今回ばかりは先生に感謝するべきじゃないかい?」 はたかれた後頭部を押さえて、オレは不満げに叩いた張本人・シリウスをにらんだ。身長差は頭一個分、にらんだって迫力が出やしないのが悲しいところだ。 「なんだよ?」 「・・・・・・・・・・こう見えたって、オレ、ケンカ強いんだからなっ!」 「あー、はいはい」 「流すなっ!」 飛行術の授業が、始まった。 ←BACK**NEXT→ 090114 |