4. 「セブ!」 「・・・・・・」 「よかった、寮に行っちゃう前に会えて。はぁ、それにしてもセブと別々かー」 「・・・グリフィンドールがスリザリンに話しかけていいのか」 「は?」 じっと見られて、素っ頓狂な声が口から洩れた。剣呑な瞳で、セブはオレを見つめている。・・・オレだって、聞いたことぐらいある。グリフィンドールと、スリザリンは、仲が悪い。それどころじゃない。仲が悪いどころか嫌悪し合っている。それぐらいは知っている。グリフィンドールの生徒がスリザリンに話しかけていたら、オレはともかくセブがどんな目にあうか分かったものじゃない。・・・だけど。 「でもさセブ。やっぱり、これからもよろしく」 「な」 「セブに、迷惑―・・・かけちゃうかもしれない。けどさ、オレはセブと友達でいたい。列車の中で助けてもらったみたいに、オレはまたお前に助けてもらいたい。だからさ、」 「友達で、いような」 「・・・」 「返事っ!」 「っ、ああ」 ふっとセブの表情が緩んだ。うわ、初めてみたセブの笑顔!かっこいいぞ! そこにオレを呼ぶグリフィンドールの監督生の声が響く。そろそろ行かないと寮に置いて行かれるだろう、そうなると非常にまずい。 「ってことでごめん、セブ!もう行く!またなっ!」 「ああ」 「合言葉は?」 「サラマンダー・ウール」 ・・・・・・火鼠の皮衣? 初めて入ったグリフィンドールの寮は、豪華で伝統的といった感じの、赤で統一された暖かい場所だった。ジェームズが興味津々できょろきょろと周りを見回す。女子の監督生の人が声をあげる。女子寮への案内だ。そうだった。問題はルームメイトだった。 すれ違う女の子女の子、見事にみんな、かわいい。え、もうこのさい誰でもいいわ。 しかしオレはまさかの部屋割りは最後。残っているのは、 「。改めて、よろしくね」 「ああ。もちろん、リリー!」 部屋割りの人数の都合上、二人きりだ。リリーとった!リリーとった!いえー!!にっこりと優しげに、可愛くほほ笑むリリー。神はいた。オレは勝った。 「って、ハーフなの?」 「ん?」 「さっき、先輩方がみんな叫んでたじゃない。伝説の日本人留学生・夕蒔千鳥と伝説のプレイボーイ・ウォルス・と伝説の救世主・アオト先輩とかなんとか」 「あー・・・・・・」 苦笑する。自分のベッド脇に荷物を置いて、ベッドの上に座って首をかしげるリリー。オレもベッドの上に飛び乗って、投げ出してある荷物の中から写真を引っ張り出した。父さんのことだ、絶対家族写真をどこかに仕込んでいる。・・・やっぱり。 家の前の、結構最近の写真。父さんがオレに向かって手を振り、母さんが笑いかけ、アオト兄が舌を出す。そして苦笑するオレ。苦労性だな、ほんと。 「コレ。家族写真。見ながらの方が早いだろ?」 「あら、見せて!」 ベッドを移ってきたリリーに渡す。すると、彼女の眼がまんまるく見開かれた。え?なにかおかしなことでも。 「写真が・・・動くの?」 「へ?うん、そりゃあ・・・ってそっか!リリー、マグル出身か!」 「え?ええ」 「魔法界の写真は動くんだ。オレもしばらくマグルとして暮らしてた時期があるから、驚くのも分かるよ。そっか、じゃあ驚くことも多いだろ?」 「そうなの。駅でもホームに着くのに一苦労。、列車の中でも、お菓子に驚きまくりだったわ」 「そりゃ大変だったな」 こくこくとうなずくリリー。それから彼女は手元の写真に目を落とした。 「その端の金髪が父さん、ウォルス。で隣の長い黒髪が母さん、千鳥。旧姓夕蒔、純日本人だよ」 「え、でも・・・」 リリーの疑問に頷いて、オレは自分の目を指さした。 「そ。母さんは日本人なのに目の色が青いの。青、ていうか水色?空色?なんかよくわかんないけど、血筋だとかなんとか。オレも同じ色」 「本当ね・・・」 「で、これが兄貴のアオト。アオト兄って呼んでんだけど。みんなの言うところの、通称アオト先輩。アオト兄は母さんに似て黒髪でさ。瞳は父さんの青、だけどね」 でも微妙に違いがあるにしてもオレもアオト兄も瞳の色は青だからねー。唯一そこだけは似てるってさ。 へぇ、とリリーが笑った。 「ハーフには全然見えないのは、あなた、お父さん似なのね?」 「そ!むしろ母さん似のアオト兄のが女に間違えられてさー。でも中身は真っ黒だよー。お世辞にも女の子みたいな性格ではないね」 「そうなのー?とてもそうは見えないけどー」 「騙されちゃだめだよ?」 くすくすと笑って、リリーもふと思いついたように自分のカバンを漁った。出てきた同じような家族写真に、オレの目が丸くなる。 「じゃあ、次は私ね?はいコレ、写真よ。動かないけど」 「十分。コレ、妹?」 「そう!」 それが、本当に嬉しそうに語るリリーだったから、「妹、似てないね」という言葉は心の奥底にしまいこんだ。 ←BACK**NEXT→ 090111 |