3. 「アオト・!」 呼ばれた瞬間に、ホグワーツの上級生が途端にざわめいた。聞こえてくる両親の伝説に、最近小さな箒に乗って飛びまわるようになった妹を思い浮かべた。あいつが入学するときは、オレも伝説になって驚かせてやろう。オレが毎日のように事件を起こすそもそもの発端は、そんなイタズラ心からだった。 そんなことを思うオレも、しっかりと父さんの血を継いでいる。 * 「・!」 そこまで順調に進んでいた組み分けが止まった。え、なんで。シリウス、リーマス、セブはすでに終えて各寮の席に座っている。ちなみに決定の反応も三者三様だった。セブはスリザリン、まるで当然だ、というように鼻を鳴らして緑色の寮へ、痛みから回復したシリウスは一瞬の驚愕の表情ののちガッツポーズをして意気揚々とグリフィンドールの赤色の寮へ、そしてリーマスはホッとしたような泣きそうな表情を浮かべてから、ゆっくりと同じく赤色へ。そうそう、リリーも嬉しそうに顔を輝かせてグリフィンドールに座った。 で、いーなー、みんなよかったなー、なんてのほほんと考えていたらついに呼ばれて前へ。その瞬間だ。城内の先輩方あんど先生方が大きくどよめいた。というか爆発しそうな勢いだった。 「なにいいいいいい!!??」 「アオト先輩の妹・・・そういえば今年はいるとかいってたぜ!」 「マジかよあのアオト先輩!?あの笑顔の完全犯罪者の!?・・・た、確かに髪の色はともかくどこか似ている・・・!」 「グリフィンドールの100年に一度のクィディッチの奇跡、救世主(メシア)の!!??」 「ってことはあの伝説のプレイボーイウォルス・の娘ー!!??」 「3年から5年の終わりまでのわずか3年間の留学でOWL試験全科目O・優かE・期待以上だった伝説の日本人留学生・夕蒔千鳥が日本に帰国したとき抜け道をつかって日本まで追いかけてプロポーズして見事射止めたんだったよねウォルス・!」 「そうそうこのホグワーツで彼の知らない道はないと言われていたわ!」 「アオト先輩もお父様の例に漏れず城内全把握されてたのよ!!」 「アオト・の妹か。期待できるな」 「本当ですわ」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・何コレ。 遠い地にいる両親と兄を想う。あんたら学校で何しでかしてくれてんだワケわかんねえ!!!当の本人・オレを放置したまま大騒ぎし続ける先輩と先生。耳に飛び込んでくるとんでもない経歴の数々。は、恥ずかしい。セブとシリウスとリーマスの目が痛い。後ろから見てくるまだ待機中の新入生からの目が痛い。めちゃくちゃ痛い。オ、オレ悪くないもん! 「静かに!。さ、帽子をかぶりなさい。」 鶴の一声とはこういうことだ。苦々しい顔をした、えーっと、マクゴナガル先生が促す。言われるまま席に座り、周りからの視線を逃れるように思いっきり深くかぶった。あー、もう、ヤだ! 『・・・・・・・・・・・・・・・・ッ、―――――――っっ!!!??』 お前もか―――――――――っっ!!! 真剣に家族を恨みつつ、オレはいらいらと帽子をにらんだ。とはいえ視界は真っ暗だが。 『ふ、ふむ、動揺して済まぬなあ。よしよし、それでは』 「・・・・・・・・・・、ちなみに父さんたちはどうだったの?」 『ウォルスは当然の如くにグリフィンドール。あの留学生、千鳥はスリザリン。アオトはグリフィンドールだったよ』 「へぇ」 アオト兄がグリフィンドールだったのはさすがに知っていた。けど父さん母さんは知らなかった。なんとなく感慨深げに唸っていると、帽子までしみじみと答えた。 『は毎度、寮の選択を間違えたかと思う唯一の血筋じゃよ・・・。千鳥も失敗したか、と思ったが。このワシが失敗はありえんがな』 「ふーん」 『よしよし。それでは、知への探求心も申し分ない、なかなかマイペースで心根もまっすぐでそこも良し。ほほう、自分で決めたことは何を排除してでもやりとげる?ふむふむ』 「褒められてんのかコレ」 『しかし、・・・・・・・・・・コレは』 「はい?」 『・・・・・・・昔を思い出すのう。よし』 突然優しくなった帽子の声に驚いて見上げた瞬間。帽子が高らかに叫んだ。 『グリフィンドール!!』 ・・・・・・・なんか。めちゃくちゃ疲れた。 よろよろとグリフィンドールに向かうと、歓声と拍手がオレを出迎えた。ああ、どこか切ないのは何故だろう。先輩の何人かが「ざまぁみろスリザリン!」とか「を取った!を取った!」とか「これでグリフィンドールの優勝も確定だ!」とかオレの肩に手を置いて「君もクィディッチで青春しよう(きらーん)」・・・とか。ちなみにとりあえずは丁重にお断りさせていただきました。 「お、前・・・そんなにすごいヤツだったのか」 呆気にとられたシリウスの声に顔をあげると、席をずらして座る場所を作ってくれていた。ありがたく座らせて貰って、一息つく。気がつけば、目の前に座っているのはリーマスだった。ああ、友人がいるって素晴らしい。 「大変だったね!ところで君、女の子だよね?」 「女だ文句あるか」 楽しげな声に、反射的に険を含んだ声で応えてその声の主を探すと、くしゃくしゃな黒髪に一癖も二癖もありそうな空気のメガネの少年が、リーマスの隣にいた。瞳に心の底から楽しんでいるような色が浮かんでいる。 「僕はジェームズ・ポッター。よろしく」 「・・・もう自己紹介は不必要かもしれないけど、・。よろし」「ぴぎゃっ!!」 「・・・・・・・・・」 シリウス、リーマス、ジェームズ、オレ、それから数人のグリフィンドール生の視線が一気にずっこけたちっさな少年に落ちた。ころころと丸い体、短い髪。次には周囲の視線は一番近いオレに。仕方なく席を立つと、手を差し出した。少年はおどおどと顔を真っ赤にして礼を言いながら立ち上がる。 「大丈夫か?」 「う、うん・・・!ご、ごめんね・・・っ!ありがとうっ!」 「ああ、うん、どういたしまして。シリウス詰めて」 「ほらよ」 つっかえつっかえで礼を言いながら座った少年は、しばらくたって落ち着いたのかようやくつめていた息を吐き出した。相当な人見知りで恥ずかしがり屋さんだ。 「僕はリーマス・ルーピン。君は?」 「あ!あ、ピーター・ペディグリュー!」 「はいはいはい!僕はジェームズ・ポッター!」 「シリウス・ブラックだ」 「え、オレってもう言う必要なくね?・・・・。よろしく」 これからの未来を決めた、ひとつの瞬間だった。 ←BACK**NEXT→ 090111 |