1.


 ごめん!仕事で!と言って行ってしまったアオト兄と父さん、そして母さんも合わなければならない人がいるのよ、ごめんね、などなど、結局一人でホグワーツ特急列車へ向かうことになってしまい、正直途方にくれた気持ちでオレはプラットホームに立っていた。目の前に立っていた(多分)ホグワーツ生にくっつくようにして動いていたおかげで無事9と4分の3番線、までには来れた。うん。頑張った!

 けど。ここからどうすんだよ!ああぁぁ、どーせ知り合いなんかいないよ!

 さすがに目の前を歩いていたホグワーツ生に声をかけることは出来なかった。だって先輩だ。どう考えても先輩だ。確実に3歳は年上だ。だからこそ安心してついてこれたけれど、「一緒に座ってもいーい?」などとは聞けない。無理。そこまで面の皮は厚くない。・・・それに、その先輩は恋人らしい人を発見して意気揚々と行っちゃったし。

 はぁ、と息をついて荷物を押してがらがらがらがらがらがら。
 がらがらがら。空いている席を探す。がらがら。
 がらがらがらがら。・・・。がらがらがらがらがらがらがら。


「ねぇのかよ!!」


 一人でツッコんでも悲しいだけだ。ものすごく冷たい視線が飛んでくる。その方向を見ると、黒髪の美少年が恐ろしく凍えるように冷たい目でオレを見ていた。おそらく一年生だろう。背格好は同じくらい。・・・これで先輩だったらオレは自分の身をマジで呪う。
 そそくさと彼の方に向かう。都合のいいことに彼の目の前の席は空席だ。いえぁ!


「座ってい?座るよ?座るかんね?いいよね。うん、ありがとー」
「誰が許可した」
「オレ。」


 恐ろしく冷ややかな目だったが、オレがにっこり笑って自分を指さすと、諦めたのか深いため息とともに視線をそらされた。席ゲットだぜ!よし。
 無視を決め込んだらしい少年の目の前で(わざと)手を振り(わざと)ポーズを決め(わざと)車内販売で買った百味ビーンズの一粒を無理やり口の中に入れてやった。瞬間、「so cool!」を決め込んでいた美少年の表情が見事に歪む。よし、今日もこの腕に異変はない。


「!?ッ、〜〜〜ッッ!!??」
「ほら、人を無視するとバチが当たるんだよー。あゆおけーぃ?」
「っ、ッッ、き、貴様ッ・・・・・・ッ!!」
「ハイちなみに何味?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・苔。」


 ・・・それは初めてだ。
 
 磯臭いわ気色悪いわ最悪だ!と怒鳴った美少年ににっこりと完璧な笑みを返して、オレは彼の怒りをものともせずに手を差し出した。こういうところがアオト兄の影響だ。うん、非常に、役には立つけどちょっぴり切ない。


「オレはでいいよ。何寮になるかわかんないけど、よろしく」


 怒りで青ざめていく美少年の顔が途端に驚きの色で染まる。


「・・・・・・女だったのか?」
これでも生まれたときから生物学的には女に属してますが何か
「・・・・・・・・・・・・・」


 さきほどとは明らかに違う(怒りが混じったような)笑みで少年を見る。少年はしばし躊躇するように視線をさまよわせたあと、オレを真正面から見据えた。


「セブルス・スネイプだ」
「よし。じゃ、セブだね」
「は!?」
「呼び名。え、そりゃあファーストネームで呼びたいし、セブルスーってのもなんか長いし」
「誰がファーストネームで呼んでいいといった!?」
「だって」


「初めての友達じゃん。ファミリーネームは、・・・ヤだよ」


「はい!ってことでほらセブ!手、出して」
「な、に・・・を」


「握手!」


 呆気にとられたままのセブの手を取って、一方的に握手。友達も誰もいないのならば作ってしまえばいい。心細く思っている場合じゃないし、そんな柄でもない。ここには父さんも母さんもアオト兄も、いないのだ。


「・・・改めて、よろしく。セブ」
「・・・ああ。―――よろしく、



 その時、初めて自分は一人で立てたような気がした。




*



 誰にも話しかけられぬよう、そんな空気を作っていたはずなのに、そんなものをものともせずに笑顔で目の前の席を陣取った変なヤツ。別に僕の席ではないから許可を取るのは確かにお門違いだけれど、あまりにも悠々と座るから思わず呆れた。そして完全に無視を決め込もうとしたら今度は百味ビーンズを口に放り込まれ。

 ・・・・・・苔なんて今までで最悪だ。
 

 そして。今、目の前に座るこの変人は。
 ―――――――――――女、だって?


 一目見て最初に目に飛び込んできたのは、ブロンドではない透けるように輝く金髪だった。ばらばらで揃わない毛先、ほとんどが短く首までで切られているが一部だけ首筋をそうように長い。動くたびにさらりとゆれて日の光に輝いて、ただ一言で、美しい。
 そして、瞳。夏の真っ青な空の色。高く遠く、天の色。ただ空色ではない、夏の色だ。その瞳が、髪の色以上に印象的だった。


 ・・・・・・正直言って、少年にしか見えない容貌だった。
 一言言わせてもらう。性別を間違えてほしくないのなら、せめて口調くらいは直せ!










 ←BACK**NEXT→



090109