「いやぁ、サンキューな<零>。お前いいやつだなー」 「なんでもいいからさっさとビール飲んだら出てってくれる?」 「おう」 ***35輪*** とか言いながら一向に出てく気配ないんだけどなんなのこの筋肉ダルマ! あたしの晩餐用のビール(わざわざ箱で買ってきたのに!)を遠慮なく空けていくウヴォーギンを呆れた目で見ながらあたしはとりあえず割れたガラスを片付けた。なんであたしがこんなことを。 「つまみが欲しいんだが」 「・・・・・・あんたを肉団子にしてつまみにして出してあげようか・・・?」 「おう、<零>とヤるのも面白ェな!しかし悪ィが今日は先約があってな」 いやいやいや嫌味なんだけど通じないんですか!通じないね!! イラッとする感情を抑えて、あたしはひっかかった言葉をそのまま追及する。 「先約?」 「ああ。鎖野郎だ。<零>なら知っているとも思うが・・・まぁ支払いが面倒だからいいわ。もうシッポは掴んでるしな」 「・・・・・、そういえばさっき、ノストラード・ファミリーに捕まったんだってね?」 「ドジ踏んじまってよ。さすが情報が早ェな、<零>」 ニヤリと含み笑いを浮かべながら、ウヴォーギンはプシュッと小気味よい音を立てながら次の缶を開けた。どうでもいいけど本当に遠慮って言葉を知らないよね!? それはともかく、と思考を巡らせる。こいつがここにいるってことはどうにかして上手く逃げてきたってことだろうけれど。片っ端から近所のホテルを襲撃してた(あたしの部屋を襲ったのはたまたま近くを通りがかったら見知ったオーラを感じて反射的に・・・ってふざけんなよマジで)のは、鎖野郎=クラピカを探してたってことかな。 「鎖野郎とヤりたいっていうのは、何?やられたらやりかえしたいってこと?」 「まぁな?オレを捕えたのは奴だからな、このままじゃオレの気が済まねえ」 「クロロには言ってあるの?」 「・・・まあ、ノブナガが上手くやってるはずだ」 つまり単独行動、不測の事態ってわけか。 「・・・、ふうん」 これはきっとクロロのなかでも予想していなかったはず。予定調和が崩された。そもそもウヴォーが囚われた時点で計画からは外れてはいるだろうけれど――――あたしは、ここでこの「賭け」に乗るべきか。 「ねぇ、ウヴォー」 * 無機質な機械音とともに携帯が震えた。一瞬の躊躇いのあと、通話ボタンを押して耳に近づける。 『――――クラピカ?』 「・・・<零>か」 『ああ。貴方からコンタクトをとることが依頼条件だったけど・・・ちょっと、情報が入ったからね』 「問題ない。情報とは?」 『旅団の団員を捉えたのはノストラード組、鎖野郎は貴方だね?』 「・・・」 さすが<零>、というところか。伏せているはずの情報を既に手に入れていることには今更驚く気もない。聞きなれていたはずの声は少し低く、落ち着いている。 『で、その逃げ出した旅団なんだけど。貴方たちの宿泊しているホテルをほぼ突き止めたみたい』 「・・・!」 『ただし、奴の体には陰獣に植え付けられたヒルの卵があるから、それを排出する必要がある。大体1日くらいは猶予があるはず。今日の夕方くらいにはそっちに向かうんじゃないかな。それまでには戦う準備をしておいて』 「・・・・・・、分かった。感謝する、<零>」 『ついでだから聞くけど。今、ほかに必要な情報はある?』 、いや<零>の声はあくまで落ち着いていて抑揚もなく、感情が読めない。不敵に笑う少女の姿が脳裏によぎって、けれどその姿を掻き消すように頭を振った。今はそんなことを考えている場合ではない。 「―――ひとつ、ある。<零>」 『なに?』 「あのとき・・・先約がある、と言ったな。私の前に契約していた旅団のメンバーとは、誰だ」 『・・・・・・・蜘蛛の団長』 「!・・・そうか」 『それだけ?』 「ああ。感謝する」 『それじゃ』 そのまま、呆気ない音を立てて通話は切れた。 ・・・・・・これは、罠か。 不安げな目で見上げてくるセンリツの視線を振り切るように背を向ける。<零>が、蜘蛛と通じているだろうことは予想していた。裏世界のやり手の情報屋、情報なら顧客のものであろうとも、対価を払えば躊躇わずに売り払う。そんな彼女が蜘蛛と通じていても不思議はない。・・・わかっていたはずだ。 ここで、私を蜘蛛に売ったところで、に得はあるのか。 逃げた11番が返り討ちにやってくるだろうことは既に予想していた。・・・たとえこれが罠の可能性があったとしても、不利は生じないはず。―――問題は、ない。 「・・・クラピカ?」 「やはり、敵はこのホテルを突き止めたようだ。もはや猶予は無い、すぐに部屋を移動するんだ」 「やっぱり、あなた・・・!あいつと・・・!」 「行ってくれ、センリツ。私は心配ない」 ・・・そのはずだろう?。 ←BACK**NEXT→ 131012 |