「――――あっ!?つぎ、次の授業って魔法史!?」 「あ、そうだったわね」 「ごめんティシー!先に行く!!」 「はいはい」 わかってたわよ、と言わんばかりの顔をする親友が振る手にすら目もくれず、私は慌ただしく階段を駆けた。偶然一緒にいた友だちはきっと、不思議そうにティシーに聞くだろう、私がこんなにも急いでる理由を。そして彼女はこう答える。「特等席を確保したいのよ。」―――ええ、そうよ、それだけよ。でも私にとってはすごく大事なことだった。だって、・・・レイブンクローとグリフィンドールの合同授業は、この魔法史の授業だけなんだもの!ああ、どうして同じ寮にしてくれなかったの!?だけどおかげで、私は魔法史の授業で居眠りをしたことがないという偉業を成し遂げることに成功している。 息を切らして教室に着く。まだばらばらとしかいない生徒たちの中、私は一番後ろの壁側に座る。目立ちたがり屋でお騒がせ者、だけど授業中はいつもなにか変なコトをやっている彼らは、先生から遠く死角になってる所に座る。ほとんどいつも同じ場所。だから私も、その場所がよく見える―――それでいて見つめていることが気づかれないように、かつ表情も動きも全部わかるような―――そんな絶妙な位置。それが、「彼らが座る席の一つ後ろ」。長い間研究して発見したベストポジション、それがここなのだ。誰にも座られていなかったことに安心。 「ちょっとシリウス、僕の教科書に落書きしただろう?」 「ちげーよオレじゃねーよ、ジェームズだよジェームズ!」 ぎゃいぎゃい声がして、階段を駆け上がって廊下を走りぬけて教室の椅子に座って、ぜいぜいと不吉な呼吸がようやくおさまったはずだったのに、私の心臓はまたも素晴らしい速度で駆けだし始めた。心臓の鼓動スピード選手権とかあったなら、今は確実に上位に入賞できる自信がある。 「だからオレじゃねーってば!」 前の席の列に入って行って、目の前斜め45度でいきなりシリウス・ブラックは振り返った。彼が振りかえったのは鳶色の髪の少年で、だから、別に、私を見たわけじゃ、ないんだ、けれど、 「本当に?」 「本当だよ!」 そう、私に用が、あるわけ、じゃ、ないんだ、け、ど、 「ならいいけどさ」 「オレ、そんなに信用ないのかよ・・・」 「そういうわけじゃないよ」 でも、いつも、遠くから見るだけなのに、魔法史の授業のときだって後ろは向かないから、ただ私が一方的に見つめるだけ(しかも後ろ姿)なのに、 「あとでジェームズに聞いてみろよ、絶対犯人はあいつだから」 そんな、こんな、間近で、笑顔が見られるって、ちょっと、待って、そんなの、刺激が強すぎ、て 「・・・て、え?シリウス、後ろの子が―――え、ちょっと!?」 「ん?―――え、おい!?だ、大丈夫か!?」 090827 |