流れ星を見て3回唱えると願い事がかなうらしい。しかし物理的?に考えてみるとそれって不可能なんだよね。そもそも流れ星見つけた!って叫んでそれで、もうそのときには流れ星って消え去っているんじゃない?だからこそ唱えられたら願いごとが叶うよ!ってことなんだろうけれどだったらもうひたすら唱えればいいんじゃないかな。たまたま3回唱えられたよ!・・・みたいな。ああ、自分で言ってて無茶苦茶なのはわかっているんだ。 「確かに無茶だなァ、ちゃん」 「うるさいわかってる!」 苦笑とともにあったかいココアを差し出してくれたコックはそれから毛布と望遠鏡を手に取りながらあたしの横へと座った。きらきらと海の水面が月の光と船の出す光を反射する。それ以外に光を放つものはない。真っ暗な夜の世界、どこからが水面で空なのかも分からないくらい。 「げっ!ちゃん手冷たすぎだろ!!今日の見張りってそもそもウソップじゃねェのか?あの野郎シメてやる・・・!」 「ああああ、違うの!ウソップにはあたしが言って変わってもらったの!」 「・・・、ならいいけど・・・なんで変わったんだ?」 なんとなく、そんな気分だったから?眠りたくなかったから?そう答えるとサンジくんは少しだけ眉をひそめて、毛布をひっぱりあげてあたしを包みこんだ。ふわりと煙草の残り香が届く。女の子には死ぬほど気を使ってくれる彼は、煙草を女の子と一緒にいる時には吸わない。マナーだろう?と彼は笑う。 「それならそれで、あったかくしてくれよ、ちゃん。心配だろ?」 「・・・うーん、ごめん」 気温なんて忘れてた。望遠鏡を握り締めて空ばっかり見つめていたら、ほわほわと自分の唇から零れる白い息とそのうしろにきらきら煌めく星たちがああ、綺麗で。 「ちゃんは、本当に星が好きだな」 「うん、そうだね。・・・いつだってそこにいてくれるからかな」 星はいなくならないのだ。たとえ雨が降っても、厚い雲が遮っても。そのうしろにはかならずあってくれる。何があったってあたしの前からいなくなることはないのだ。信じられないくらい暖かいサンジくんの手。というよりはきっとあたしの手が冷たいのだろう。包むように手を合わせてくれたサンジくんは、それからふわっとあたしの両手に吐息を落とした。 「・・・・・・全然、あったまんねェな・・・ココア、もっと用意してくればよかったな。大丈夫か?」 「・・・うん、平気。ココア、ありがと」 「ほっぺも真っ赤だぜ?・・・あー、やっぱ冷てェ」 右手であたしの両手を包んだまま、左手で彼はあたしの頬に触れた。確かにきっとしもやけみたいに赤くなってるだろうなあ。なんて呑気に考えながら、距離の近いサンジくんの顔を見つめた。言わせてもらえば、ここにいるせいかサンジくんの吐く息だって白いし、その白い肌だってだんだん赤みを帯びてきている。 「サンジくんだって寒いくせに。あたし、平気だってば」 「そういうのをやせ我慢っつーんだぜ?おれならちゃんといれば平気」 「あたしだってサンジくんといれば平気」 「言ってくれるぜプリンセス。こんなに冷たくなっちまうまで一人でいるんじゃねェよ、全く」 「ん・・・ごめん」 また毛布をひっぱって、それから彼は体勢を変えて、あたしを後ろから抱きしめるようになって、毛布にくるまりなおした。つまりあたしは彼の腕の中にいて、毛布は彼ごとあたしをくるんでいる様な。まるで子供の扱いに少しむくれそうになったけれど、確かにこのほうが圧倒的にあったかかった。 「ていうか、サンジくん当番じゃないじゃん。部屋戻っていいよ、寒いくせに」 「なに言ってんだ、付き合うよ。ちゃんの体温が直に伝わってイイしぐふぉっ!?」 ストレートにセクハラ発言をかましたサンジくんの顎に頭突きをHITさせて、あたしはココアのマグを握りなおした。まだ湯気をたてるココアは温かい。 「・・・あ、ッ!ちゃん!」 「え、っ?・・・!!」 サンジくんの動揺した声に反射的に空を見上げる。ひとつ。落ちた流れ星の尾がぎりぎり目に入った。 「あああ!!」 「惜しかったな、ちゃん」 「ねがいごとがー!!」 「(もしかしてこれを待ってたのか?)・・・願い事って」 「ひみつ!」 そう大声で言った瞬間、また、ひとつ流れ星が落ちる。悔しがる暇もなく、次から、次へと。まるでシャワーの様に、星が落ち始めた。 「すげェ・・・!!」 「――――ずーっと、」 「みんなで冒険ができますようにっ!!」 「「・・・え」」 叫んだのはあたしではない。下を見下ろせばいつのまに集まったのか、ルフィを筆頭にみんな集まっていて。ルフィは嬉しそうに、楽しそうにそう叫んでみんなの笑顔を誘っていた。「海賊王になるじゃねェのかー」「それは願い事じゃねェ、絶対なるから願い事じゃねェんだ!」とか「ベリー降ってきてー♪」とか、みんなの声が届く。 「・・・ちなみにちゃん、願い事は」 「―――ううん、もういいの!」 「早くいわねぇと、流星群終わっちまうぜ?」 「うん」 不思議そうにあたしを見下ろすサンジくんに笑顔を返す。そうだね、「絶対なる」ものは願い事じゃないんだね。ルフィの言葉に笑いそうになりながら、あたしはマグに口付けた。 「綺麗だね、サンジくんっ」 「ああ。見れて、よかったな」 波間の星屑に落とすくちづけ
(ずっと君と一緒にいられますように) 110327 |