やだ、やだ、うわ、うわー!見ちゃった!あれが世の中で言われる告白ってやつですね。大好きな意中の人に勇気を出して思いを伝える行為―――うわ、そんなの見ちゃったんだ!あたしってばなんて空気が読めないんだろう!とは思うものの見ちゃったものは仕方ない。ていうかあんなところで告白するほうが悪いのよ。なんて責任転嫁しつつ、関係ないはずのあたしの頬は真っ赤になっていた。ガラスに映りこんだ自分に苦笑する。前の授業でシリウスに借りた教科書(自分のを寮に忘れてきた。なんて間抜けなんだろう)を返そうと思って、姿が見えたから追いかけて、で、そんな場面に遭遇してしまったわけで。声をかける直前で気付いて慌てて戻ってきたけど―――どうするんだろう、シリウス。OKするのかな。かわいかったもんなあ、あの子。何年生なんだろう。



「ひえい!」


 唐突にたたかれた肩。驚いて口から出たのは変な声。振り向くとおかしそうに唇に笑みを乗せたリーマス・ルーピン。なあに、と聞くと「いや、窓の前で百面相してたから何事かと思って」・・・。ひゃ、百面相?


「面白かったよ。ニヤけたり悩んだり笑ったり首かしげたり」
「うっそぉ!!」
「ホント」


 くすくすと笑いながら言う彼からずばりと言われて、あたしは自分がどれほど恥ずかしいことをしていたかに気づいてさっきとは別の意味で顔が火照った。うわーうわー恥ずかしい!リーマスならこうやって笑ってくれるけれど知らない人が見たら、相当変な人だったんじゃないかな。窓を見ながらひとりでころころ百面相。なんて嫌な光景。あたしだって別の人がそんなことをしているのを見たらちょっと引くかもしれない。いや、どうだろう。面白がって近づくかもしれないな。まるで今のリーマスがしたように。


「で、どうしたの?」
「いやその、シリウスに本返そうと思ったら、ちょっとあのお取り込み中で」
「あー、そういえば呼び出しされてたなあ。グリフィンドールの3年生に」
「へ、へえー・・・」
「気になる?」
「そりゃまあ、ねぇ。リーマスは気にならないの?」
「え、僕?うーん・・・」


 え、なに?気にならないのリーマス?だって友だちが告白されてるんだよ!こくはく!アレですよ青春の象徴ともいえる告白!KOKUHAKU!ああもう何がいいたいんだかわからなくなってきた、うん、別にシリウスなんて誰と付き合おうが別れようが別になんにもあたしには関係のないことですし?ほっとけばいいんだけれども?それでもなんかこう、どこか浮足立ったようなふわふわするような、そんな感じ。


「別に。だってシリウスが告白されるなんて日常茶飯事だからね」
「そりゃそうだよねー、毎日とっかえひっかえいろんな人と付き合ってるもんね」
「とっかえひっかえ、って・・・シリウスがまるでやなやつじゃないか」
「え、事実じゃない」
「そうだけどさ」


 そう言うとリーマスはふと黙りこんでじっとあたしを見た。なにごとか考えてるようなそんな瞳。不思議に思ったけれどなにも言わないで、彼が次の言葉を口にするのをあたしはただ待つことにした。待つといったって20秒とかその程度(測ってないからわからないけどね)だったけれど。


「・・・、ねえ
「はいなんでしょう」
「(どうしてそんなにかしこまってるかは訊かないでおこう)きみは」
「え?」


 そこまで言ってリーマスは再び黙り込んでしまった。いやいやいや、ねえ、きみは、しか言ってないよ。文字数にしてなんと9文字だよ9文字!二桁にすら達しないよ!だけれどリーマスはそれから、くしゃりと自分の鳶色の髪をかき上げる。(うらやましいんだ、綺麗な髪の色)そしてまた、ようやくゆっくりと口を開く。




「僕が告白されてたら、どうする?」




 はあ?ぽかんとしたままあたしはすぐに「そりゃあ気になるよ!」と答えようとして―――自分の心臓がどくん、と嫌な音を立てたことに気づいてしまって、黙り込む。リーマスが?リーマスが―――知らない綺麗な可愛い女の子に、ありったけの「好き」な気持ちを伝えられていたら?・・・リーマスが、あたしに向けない知らない表情を、その子に見せるのなんて――――


「ごめん!なんでもない!!、ごめんね。忘れて」
「――――え、」


 ぱぁん、とリーマスが両手を合わせる音で我に返ると、リーマスは困ったような笑みを浮かべてあたしを見た。え、あの、みたいに挙動不審になりながら、謝るリーマスにいいよべつに、なんて返す自分の声をどこか遠くから聞いていた。おいリーマス!と声が後ろから聞こえてきて、リーマスの肩越しにそっちを見るとシリウスが駆けてくるのが見えた。あの女の子とシリウス、どうなったのかなあ。でも今はそんなことどうでもよくって、頭の中は知らない誰かに告白されるリーマスの図でいっぱいだった。ただの想像のはずなのに、どうしても唇が震える。こんな感情知らない。・・・ああ、そうだ、本返さなきゃ。











ある春の日に

(ひとごとだと思っていたけどいつか、もしかしてあたしも)











090829