がしゃん、と金属の音がする。その小さな音で私は目覚めて傍らの時計を確認した。午前3時。信じられない、こんな時間に。寝ぼけた頭でそんなことを思っていると、とんとんと足音がして彼はすぐに私の寝室へやってきた。血のにおいをぷんぷんさせながら。


「どうしたの?」
「―――ううん、別に」
「別にじゃないでしょ、こんな時間に」
「そうだね。寝てると思った」
「起きたの。人の気配に敏感なの。知ってるでしょ」
「うん、知ってるよ」


 けろっとそんなことを答える彼。ああ憎たらしい。この人懐っこい笑顔。いつも騙される。だけどシャルナークは珍しく、薄く笑みを浮かべただけでベッドから起き上がったままの私の肩に抱きついた。部屋は暗くて窓から月の光が差し込むだけで、よくは見えなかったけれど、彼の体は濡れていた。つんと鼻を突く鉄分の香り。血だ。また今日も仕事なんだね。それは言わずに私もただ彼を抱きしめた。細くてしなやかなのにだきしめるとしっかりと男性の体。―――ねえ、シャル。どうしたの?


「・・・ちの、におい」
「うん・・・そうだね、ごめん」
「ねえ、ねえ。シャル」
「んー・・・?」
「電気、点けて。ほんとに、どうしたの?」
「やだ」


 やだ、って。シャルらしいといえばシャルらしい、けれど。抱きしめただけで私の手も濡れていく。それが何を意味するのか分からないほど私はバカじゃなかった。気づかなかった方が良かったのかもしれない。気づいてしまった。ああ。それがどういうことなのか。


「あったかいね、。寝てたから余計かも」
「そう・・・?シャルは、・・・冷たいよ」
「そうかな。寒い?ごめんね」
「ううん―――平気・・・」


 彼の吐息が耳にかかる。震えてる呼吸。月の光はきらりと彼の金髪に光を反射させた。その髪にもこびりついた赤黒いものを見て唇が冷たくなった。私を抱きしめたまま、シャルはゆっくりと私の顔を見つめて、そして一瞬だけ唇と唇が触れた。


「・・・・・・シャル」
「ごめん・・・ちょっとだけ、寝るね」
「・・・・・・・・・うん・・・」
「明日の、朝には―――帰るから、」
「・・・・・うん」
「起こしてよ、
「・・・・うん・・・」


 明日の朝はスコーンを焼こうかな。目玉焼きにベーコンも付けて。久々に豪華にしようか。ねえ?私の腕の中に沈む彼を抱きしめて私は目を閉じた。















 螺旋を抱く






 







090602