「・・・。・・・・・・・え?」 すかーっと気持ちよさそうに眠る一人の少女。これが休日の午後でそよ風吹く優しい時間だったなら、僕はそれをそのまま放置しただろうし隣で寝ようかな、と思ったかもしれない。けれど生憎。今、豪雨だ。 殴るような雨と風が荒れて、こんな天気のなか外出するような人間は普通いない。どうして僕がここにいるのかと言うと、・・・それは、毎月一度の真夜中の会合のせい。朝になって変身が解かれて、外に出たらまさかのこの天気。アニメ―ガスに変身中のジェームズたちは動物の姿のままもう学校に戻った、かな? そう、アニメーガスじゃない僕は、この豪雨で彼らとはぐれてしまったのだ。 学校に戻ればいい話なんだけれど、あまりに雨も風も酷いから、ちょっと収まるまで雨宿りしていこうかな、なんて思って近くの木陰に避難した。そうして僕は、すやすやと呑気に眠る女の子を発見したというわけだ。 「大丈夫、なのかな・・・?」 「禁じられた森」ではないにしろ、この嵐の中なんでこんなところで寝てるの?呆然とその閉じられた長い瞳を見つめる。もしかして死んでるの?とか思って見たけれど、規則的に動く胸、幸せそうな寝息、・・・死んでるわけがない。じゃあ、どうして? ぽたぽたと僕の髪や体から滴る雨の雫が、ぽたぽたとその子に落ちそうで。僕は慌てて彼女の隣に座り込んだ。雨が止まない。ひどい豪雨で前が見えない。・・・っていうか今、朝だよ?この子、いつからここにいるの?視界の悪い空を見上げながら、疑問符ばかりが浮かんで消えた。 「んー・・・もぉ食べらんない、ぃッ!?」 呑気にそんな風に寝言を言った彼女の語尾が不意に跳ね上がった。どうしたんだろう、と思って視線をやる。寝っ転がった姿勢のまま、僕を見上げて目を見開いて彼女は固まっている。あ。起きた。 「あ、え、はっ!?」 「お早う」 「・・・おはようございます」 馬鹿丁寧にそう返事を返して、女の子は慌てた風に顔を真っ赤にして起き上がった。こんなところで寝てたせいで、制服は泥が付いてるし木の枝から落ちた雨でところどころ濡れてるし。気がついたら手が動いて、自分のセーターの裾で土のついたその子の頬を拭っていた。 「ひえ!?あ、ありがとう!?」 「どういたしまして」 さすがに失態を見られて恥ずかしいのか、その子は顔を真っ赤にして焦った顔で座りなおす。僕もその隣に座った。 「リーマス・ルーピンさん、だよ・・・ですよね」 「え?うん、知ってた?」 「有名ですもん」 そう言ってちょっと嬉しそうに笑った彼女に戸惑いながら、僕も笑って頷いた。学校で大騒ぎするあいつらの仲間なんだから、自分の名前と顔が知れ渡っているのはなんとなく知ってたけれど、ちょっとだけ不意打ちにクラリとくる。 「君の名前は?」 「え・・・?」 普通に、そういう、自然の流れで聞いたはずなのに、その子はぽかんとした顔で僕を見る。それから視線をずらして、つっかえつっかえ、答えてくれた。 「・・・、です。レイブンクローの・・・」 「同い年?」 「え、う、はい」 「じゃあ敬語なんて使わないでいいよ。そんな、言いにくそうに使わなくてもいいよ?」 「!」 使い慣れてないことがバレバレだった言葉を指摘すると、またその子は、じゃないは真っ赤になった。よく赤くなる子だなあ、呑気に考える。 それからしどろもどろのつっかえつっかえ、言葉はところどころおかしかったけれどどうでもいい他愛のない話をして、そんな間に嵐は徐々に治まっていった。小雨の合間に太陽の光がちらちらと見えるようになったころ、ハッとしたようには、がばっと立ち上がった。 「どうしたの?」 「そろそろ行かなきゃ、と、思って」 そりゃそうだよね。もうそろそろ朝ごはんの時間。僕もゆっくり立ち上がって、小雨の中に足を踏み出したの隣に立つ。持ってたローブを引っ張り出して傘みたいに広げ、をその下に引っ張り込んだ。もちろん僕自身もその下に。驚いたような視線が僕に向けられる。 「濡れるでしょ?」 「・・・、ありがとう」 何か言おうとしてでも言わないで、結局ただ礼を告げてまた頬を染めて、笑ったに僕も微笑む。誰かに見られたら?今朝初めて会ったばかりなのに、なにか言われたらどうするの?そんな感じだろう、けれど、僕はそんなことどうでもいいと思えるほどに、なんだか君が気に入ってしまったみたいだ。 (校舎に着いて、別れて、気づいた) (彼女があんなところで寝ていた理由) (・・・次に会ったら、聞こうかな) 090403 |