私、は、決して可愛くないと思う。別にとびっきり不細工ってわけじゃないけど特別美人ってわけでもない。同じ船に乗るナミやロビンは本当に綺麗で、2人とも別のタイプではあるけれどどちらももう凄まじい魅力を輝かんばかりに放っている。一緒に歩いていていちいち一挙動に見惚れてしまうほど。

 さてそんな私はと言えば胸は標準程度、腰は細いほうかな!けどお尻もばーん!とあるわけでなし、つまりは面白くもなんともない普通の女子、の体型。身長も別にないし、それはつまり足だって長くないし(むしろ短い!)ああもう、コンプレックスの塊で生きている気分だ。ていうか比較対象がよすぎるのよ!みじめにだってなるでしょう!?で顔もメイクすれば多少映えるだろうけど、うーん・・・お世辞にも綺麗な顔はしてないと思うのだ。具体的な描写は哀しくなるのでしないけれど、せいぜい頑張って「よく見れば可愛く見えてきた!」みたいな。あ、ダメ余計悲しい。


「なに鏡見ながらブツブツ言ってるの、ちゃん」
「ひえっサンジくん!?」
「そんなに眉間にしわ寄せてたら、せっかくの可愛い顔が大無しだぜ?」
「ぬー!触るなー!!」


 馴れ馴れしくもにゅっ!と手を伸ばしてきて、彼は私の鼻を指で押した。ブタ鼻にされて唸ると、笑いながら指は離れた。だけど鏡の中で私と彼の距離はとても近い。すぐ隣で、鏡の中の私を見つめて、サンジくんは優しげに目を細めた。


ちゃんは可愛いよ、なにも悩まなくていいさ」
「サンジくんの言葉は全く持って信用できません」
「ひどいな」
「信用できないよ、本当に思ってなくたって褒めるくせに」
「そんなことないさ」


 あるでしょ。とは言わずに、私は鏡の中のサンジくんをにらんだ。鏡像の彼は相変わらず笑みを浮かべたままだ。背後から腕が伸びてきて、何かと思えば彼は鏡に映った私の頬に手を伸ばし、そのままひたりと触れた。本当に触れられたわけでもないのにとくんとその箇所が熱くなる。


「焦ることない、君はまだ15歳だろう?これからどんどん綺麗になるレディだよ」
「ナミとはそんなに離れてないもん」
ちゃんの年代の女の子は、ほんの短い時間で綺麗になるもんさ」
「うそ」
「嘘なもんか」


 そう言うと彼は鏡に触れていた手を引っ込めて、かと思えば今度は直接頬に触れてきた。撫でるわけでもなく、ただ優しく触れられる。嫌だとは思わなかった。鏡の中からまっすぐに見つめられて、目もそらせない。ただ縛り付けられたように私はその場に固まる。ふわりと、甘いバニラの香りが漂った。今日のおやつだろうか―――そう思っていた瞬間、唐突に彼は鏡の中の私から目を外して、私の額にキスを落とした。


「へっ!?さ、サンジくん、なに」
「――――ホラ、ちゃん」
「えっ?」


 反射的にかぁ、と赤くなった私は、声が上ずったままサンジくんを振り仰ごうとして、彼の優しい声と鏡を指差すその仕草につられてもう一度鏡の中の自分を見た。そこにはちょっぴり潤んだ瞳の真っ赤な顔の女の子が、いて。


「これで可愛くないなんて、冗談言ってくれるよ」
「!!」


 さすがに慌てて振り向いたら、そのままサンジくんの腕の中にいた。頭は混乱最高潮、え、え、え?なにこれどうしたの?頭の上で、彼がくつくつと笑うのが聞こえた。


「可愛いよ、そんなちゃんはおれの前だけでいい」


 その言葉に私は更に真っ赤になって、彼のスーツから香る微かな煙草の匂いの甘さにクラリと酔いそうになった。そうして私は最初に悩んでいたことなど、忘却してしまうのだ。それは酔ってるせいだからかもしれない。彼の甘い腕の中に。

















鏡像にジェラシー

(きみの全部は、僕にだけ)





110424