ああまた、ほら。そんなに泣きそうな顔をして。そんなにシリウスのことが、好き？・・・お互い、どうしようもない、ね。 「・・・あ、オレちょっとこれから行ってくる」 「はいはい行ってらっしゃい、かっこよく決めてきなよ色男ー」 「うるせー！！」 　軽口をたたいてシリウスの背中を見送って。切なそうに切なそうに、は目を細めた。彼女があいつに本気で恋をしていることを知っていた。そして本気であいつの恋を応援していることも。矛盾だらけなその感情をなんと呼ぶか、僕は分からない。自分のこの感情も、なんて呼ぶべきか分からない。 「泣きたいなら泣いたほうが楽だよ、」 「！・・・リーマス、」 　声をかけてハッと顔をあげ、僕を見たの瞳はすでに揺れていた。今にも零れそうなまでに涙を目にためて。それでも彼女は、そんな素振りは決してシリウスの前では見せないのだ。 「ありがと・・・、平気だよ」 「うん、・・・そっか」 　ほらまた、そんな風に笑う。ぼろぼろで、泣きそうで、傷ついて。―――そんなに、あいつがいい？君を傷つけて泣かせる鈍感男、なんでそんな男が好きかな。もっと幸せになれる恋の相手がきっと周りに何人もいるじゃないか。・・・僕だって、その一人ではあるのに。 　泣きそうになんて笑うなよ。僕の前でなら泣いていいんだよ？君が本当にほしいものは、ごめん、あげられないけれど。僕じゃ駄目かななんて言うつもりはないんだ、答えは聞かなくても分かってるから。だからさ。あいつの前で泣きたくないなら、困らせたくないなら。僕の前で泣きなよ。傍にいるくらいはできるから、さ。 「――――ねえ、」 「・・・・・・ん？」 「言わないの？」 「・・・え」 「シリウスに、さ」 　大きく瞠目した色素の薄い瞳が僕を映す。それから、彼女はゆっくりと首を振った。「そんなつもりは、ないの」そうだよね。それでいいのか、僕は分からないけど。 　せめて友だちでいたいの、とだけ言ってはまた笑った。その瞳から一粒だけこぼれおちた涙が絨毯に吸い込まれた。どうしたらいいんだろう。どうしていたら、よかったんだろう。僕らはまだ幼くて、何もできなくて。ただ不器用にすれ違いばかりが続くんだ。どうして友だちのままではいられないんだろう。理屈じゃないんだ。分かってる。君にそんな風に言っておきながら、何も言わない僕だってきっと卑怯だ。 　どうして僕じゃいけないのか。どうしてあいつじゃないといけないのか。どうしてじゃだめだったのか。みんなが幸せになれる方法なんて、きっとそんなものはないのだろう。誰かが笑って誰かが泣く。そんな世界に僕らは生きているのだから。涙も切なさも全部嘘で覆って、だけど、僕はそれでも君には本当に幸せそうに笑ってほしいんだ。いつか、きっと。 > 狼少年の嘘 （卑怯なのは、僕？それとも、） 100606