セブルス・スネイプ。彼の名前を拾った教科書の裏から発見して、意味もなく鼓動が跳ねた。うっそ!これって、うわ!ちょ、え、えええ?思わず周囲を確認してしまう。確実に挙動不審な私は通りすがったレイブンクロー生に思いっきり変な視線を向けられた。

 これってもしかして、あの悪戯仕掛人のメンバーの彼に対するイジメの一貫?そんないやな予感が頭をよぎる。執拗と言ってもいいほどのアイツらのイジメは、私が知っている以上にきっとひどいものだと思う。けれど、私はそんな彼らと同じグリフィンドール生だ。


「・・・どうしよう」


 返しに行った方がいいんだよね、分かってる。けれど、そんなことしてもいいんだろうか?臆病な考えが浮かぶ。こんなことしてる場合じゃない、きっと困ってるだろうし、すぐに返してあげなくちゃ。なのに。


「おい」
「きゃああ!」


 不意にかけられた声に振り向けばそこに立っていたのは件の本人、セブルス・ススネイプ!思わずあげた悲鳴に彼もびっくりして立ちすくむ。


「あ、ご、ごめんなさい!びっくりして!」
「・・・いや。・・・その、教科書、」


 口数少なく私の手の中の教科書を指さす彼に、私は慌てる。これは渡す!渡すべきだ!だって持ち主なんだもの!


「さっき、ひろったんです」
「・・・だろうな」


 不愉快そうに眉をひそめて彼は受け取る。その瞬間に見えた指。細くて長くて、まるで女の子みたいな綺麗な指。うわ。意外なところに思わず目を見張る。だって、もっと陰険で暗くって嫌みたらしいやつだと、思ってた。けど。


「ありがとう」


 近くで見ると、綺麗な顔、して、て。


「あ、わ、私!って!いうんです!!」


 礼を言ってそのまま立ち去ろうとしていた彼は私の声に驚いて振り返る。めちゃくちゃなことを言ってることもわかってるけど、私は止められなかった。


「今度、拾ったら!届けに、行きます、から!だから!」
「・・・だから?」


 怪訝そうなその瞳に、ちょっとだけ愉快そうな色が映ったような気がした。


「名前、覚えて、くださいっ!」
「・・・・・・」


 呆気にとられたような顔に、こらえきれなかったような笑みが浮かぶ。ああ、この人は、こんな風に笑うんだ。私はぼんやりそう思う。


「・・・ああ。頼む、


 笑みを残して、彼はそのまま廊下をすたすたと去っていく。私の頬を真っ赤に染めたまま。嘘でしょう?自分の心に問うけれど、嘘なわけ、なかった。もう、だめです。私は今日このときから、スリザリンのセブルス・スネイプに恋をしました。












(今も胸に木霊する、)
(ありがとうって、笑ってくれたあの最初の日)
(そのときからずっと、ずっと。)











090403