特等席であるメリー号の船首に座っていつでもまっすぐ海の向こうの果てを見つめているはずのルフィが、今日はどうしたことかそこの甲板で大の字になって寝っ転がっていた。頭の横にしゃがみこんで「なにしてんの?」と聞けば、「腹減ったーあー・・・サンジィ・・・めし―――」と言う声が漏れ聞こえてきた。なんのことはない、天の中程にまでせり上がった金色の太陽が時刻を告げている。さんさんと降り注ぐ陽の光の下、ルフィはうあうあと唸り続けた。時折彼の唸りに登場する「サンジ」くんはといえば、ちょうど彼の本業に取り組んでいるころだ。つまりはお昼ご飯の時間はもうすぐ、イコールルフィのお腹の空腹レベルもMAXというわけだ。


「はーらーへったーあー」
「今サンジくんが作ってるから耐えて、ルフィ」
は腹減ってねぇのか?」
「減ってるけど、我慢できないわけじゃないし」


 軽口を叩きながら、大の字になったルフィの頭の横にぺたんと腰かけた。抜けるような青空、雲一つ無い。少し離れたところから、チョッパーとウソップの笑い声が聞こえてくる。舳先の方からはゾロの筋トレの声、ナミとロビンは部屋の中かな。なんだかすごく平和な気分だ。


「確かにお腹減ったなぁ」


 私がそう呟くとルフィがまた唸った。よっぽど減ってるんだなぁ、なんて呑気にぼーっとしていると、唐突に自分に影が落ちた。一瞬の出来事になにが、起きたのか、しばらく思考が付いてこなくて(というか脳が凍結していて)、事態を把握したときには私はルフィの文字通り、「下」にいた。


「・・・・・・・、はぁ!!?」
「めしー・・・」


 要するにすごく突然に押し倒されたわけで、強かに頭を打って目の前がきらきらした。たんこぶが出来てしまっている気がする。だけどそんな悠長なことは言ってられなくて、私を見下ろすルフィの目が、・・・完全に、肉食獣の、目で、


「――――――っっ!!??」


 比喩でもなんでもなく、純粋に本当に、





 あ。喰われる。




「ちょっ・・・とルフィ、いくらなんでも仲間を食うな!」
「めし!」
「私はめしじゃないってば、ちょっとちょっと待ってぎゃ――――!!!」


 必死の抵抗むなしく(そもそも私が抵抗したところでルフィの腕力には敵うわけがない)がぶ!と彼は本当に私の首筋に噛みついた。そのままべろんとそこを舐めて、いただきまーす、と言わんばかりにあーんと大口あけてー・・・


「昼間っからちゃんになにしてやがんだクソゴム――――っっ!!!!」


 すぱかーん、と飛んできたのは・・・、フライパン?綺麗にヒットしてもけろりとしたルフィは、ぴくん!と面白いほどに敏感に反応した。怒り心頭のサンジくんが口を開く間もなく「肉――――!!!」と声をあげながら怒涛の速さで駆けていく。唖然とその場に残されたのは、サンジくんとルフィの涎でぐしょぐしょに濡れた、私だ。


「大丈夫か?ったく昼間っから盛りやがって・・・」
「あ、違うの、文字通り喰われそうだったの」
「・・・・・・・あのちゃん、それも問題じゃねぇか」


 まあ、確かに。まさか私だってルフィに食糧扱いされるとは思わなかった。サンジくんが差し出してくれたタオルを素直に受け取って、ガチャンガチャンとうるさい音の方を見る。「やべぇあのクソ野郎、全部喰われる!」と声まで青くしたサンジくんはあたしに一言断るとキッチンに慌てて駆けていく。

 だけど・・・喰われるのも、悪くはなかった、なぁ。なんて、首筋に残った歯形に触れる。肉に負けたのがちょっと悔しかった、なんてのは内緒だ。

















がぶり。

(君にだったら私の全部、あげたって構わないのよ!)









110630