「電車がぶつかったくらいじゃ 死なないと思うの」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・はあ?」




 あまりに唐突すぎたその言葉に、思わず俺は言葉を失った。というか呆気にとられた。言ったのは横を歩く少女。軽やかに頬を撫でていく夜風に髪をなびかせて、ゆっくり歩く彼女に歩幅を合わせながら。俺は思わずその横顔をじっと見た。


「そりゃなら死なないだろ。」
「ビルから落ちても、毒蛇に咬まれても、落盤事故に巻き込まれても?」
「死なないよ。」
「誰かに刺されても、海でおぼれても、雪山で遭難しても?」
「・・・それはよくわからないけど。でもなら死なないような気もするね」
「そっか」


 なんだかいろいろよくわからないけど、そんなことを言うは特に深く何かを考えるでもなくあっさりとまるで世間話かなにかのように(実際彼女にとってはそんなレベルの会話なのだろうけど)そこで話を中断させた。唐突に話し始めて唐突に打ち切られて、気にならないと言えば嘘になるけど、別に、話を続けたかったわけでもないので俺はと繋いだ手にほんの少しだけ、きっと俺にしかわからないくらいに力を込めた。なんだか手を離すとそのままふわりふわりと夜の風に攫われて行ってしまうような、ありえない想像をしてしまったからだ。

 実際が死ぬだなんて。死ぬだなんて。想像できない。普通の一般人ならそうまるでガラス細工のように、一瞬で壊れてしまうけれど。それは「一般人」の話。普通じゃない俺たちはそう簡単には死なないし、死ねない。いや死ねないというのは間違っているだろう。死ぬことは簡単だ。そこに辿りつくまでが難しい、といったところだろうか。それでもやはり人間である俺たちにも、死というものは平等にやってくるのだ。


「・・・シャル?」
「ん、ああ。何?」
「手。」
「手?」
「痛い」
「痛いって・・・、わ、ごめん」


 気がつけば俺の握っていたの手は真っ白になってしまっていた。普段から表情をあまり変えない彼女の顔もさすがに痛そうに眉をひそめている。慌てて手の力を抜くと、は小さく息をついた。


「ねえシャル」
「ん?」
「もしいつか死ぬならね、」
「うん」
「若くて綺麗なうちに死にたいな」
「・・・」


 そういう彼女の横顔からはなにを感じているか、なにを考えているのか、読むことはどうしてもできないくらいにいつもと変わらない普通の表情で、だから、ああ、彼女はきっと今言った言葉なんて数秒後には忘れているだろうし(その証拠にほら、もう次のはなし「あしたは海にでも行きたいなあ」なんて言い出してる)哀しい位にどうでもいいことだと思ってるだろうけれど、でも、俺は、



















凍りついた鼓膜

(したくもない想像をしてしまった)
(君の、最期だなんて)











090824