エース隊長といえば、私にとってのイメージはというと、無鉄砲でちょっぴり意地悪で、ちょっと危なっかしくってやんちゃでどこか子供っぽくて、優しいくせに不器用でなんとなく女慣れしてて。でもって家族想いの、素敵な素敵な、私の隊の隊長だ。


「お、前・・・そんなの、普通、本人の前で言うか・・・?」
「ええ。だって事実ですもん。なにを恥ずかしがってるんですか、ちゃんと聞いてくださいよう」
「いくらなんだっておれも照れるわ、アホ。あーもう、!ちょっと黙ってろ!」
「嫌ですよ。可愛い可愛い隊員が、一生懸命喋ってるんですよ?ほらぁ耳塞がないでくださいってばまだ序の口なんですからぁ」
「・・・何を企んでるテメェ・・・」
「何も?ほらほらちゃんと聞いてー」


 そばかすの浮いた頬をうっすらと赤らめながら私を睨むエース隊長。そんな顔じゃあ全然怖くない。不服そうながらもようやく耳から手を離してくれた隊長のそばで、キープしていたパンをひとかじり。背中を預けた船のマストは天高くそびえてこの大きな船を支えているのだ。宴会の喧騒から少し遠ざかり、見上げた星空がきれい。なんだかエース隊長をひとりじめしている気分だ。ちょっと浮かれそうになる自分を抑える。


「そーですねェ、“火拳”の名に恥じずいつでもどこでも着火OK!サバイバルに持ってこいっ」
「おいこら」
「たまに無意識で火ィつけてボヤ起こす」
「う゛っ」
「こないだマルコ隊長に怒られてましたね。何したんですか?」
「自分の失敗をわざわざ言うわけあるか!!」
「えー、つまんないですようー」


 けたけたと笑うと、頬を小突かれた。彼はそのまま、傍らに用意してあるお酒をぐいっと一気に干した。これでなかなか酒豪だったりする。私なんかは大して強くもないから隊長たちの酒比べなんて付き合えないけれど。その辺にいたらしいナースを呼んでおかわりを持ってきてもらうとこなんてほんとエース隊長らしい。女の子が傍にいる時、普通別の女の人呼びますか?いや、別に、私なんかただの隊員の一人ってだけなんですけど?てゆーかおかわりくらい私が取りに行ってあげますっつーの!頼めよ!


は宴会行かねえのか?」
「はい。エース隊長こそ、行かないんですか?」
「んー・・・なぁんかそういう気分じゃねえっつーか、な」


 いつだって宴の中心できらきら笑ってるエース隊長が、そもそもこんなところでぼんやりしてることがおかしい、と言えばおかしいのだけど。あれ?でも最初にここにいたのって、私で。一人で星を見上げてたら「なにしてんだお前」って来てくれたのは隊長のほう、で。・・・ああ、もしかして気を使ってくれたのかなあ。だとしたら嬉しい。


「あとですねー」
「・・・おまえ・・・まだあんのか、それ」
「はいもちろん」


 少しうんざりしたような顔を見せるけれど、諦めたようにして耳を傾けてくれる。優しいよなあ。私なんかのワガママにまで付き合ってくれるんだから。


「弟大好きブラコン」
「ぶっ!?」


 含んだ酒を勢い良く拭いて、エース隊長はげほごほと咳き込む。


!ブラコン、て・・・」
「何言ってんですかみんな知ってますよー!弟さんの手配書、だれかれ構わずひたすら見せびらかしてたじゃないですか!麦わらのルフィ、でしたよね。デレデレじゃないですか!」
「そこまでいってねえ!そりゃー弟が一億の賞金首になったら・・・うん、嬉しいじゃねェかよ」
「ほらまたー!ブラコン!!」
「うるせぇ!」
「ブラコン!弟愛しすぎですばーかっ!ブラコ・・・ぶふぇっ」


 ン、と言おうとした口は言葉を紡ぐ前に塞がれた。どうやって、と言えばお酒のジョッキを口に押し付けられて、だ。おかげで女子としてありえない声を出してしまった。突然過ぎて口に含めなかった酒がぼたぼたと床に落ちる。アゴもびしょびしょだ。何してくれるんだこの人。


「お前・・・なんで機嫌悪ィんだ」
「んーんーんーんー!」
「全く、言いたいことがあるんならはっきり言え、バカ」


 そう言うとようやく口からジョッキを離してくれた。酒だらけの口から胸が濡れて冷たい。問う隊長の目が妙に真剣で、あーあ、ごまかせないなあ、と覚悟した。


「・・・だって隊長、弟さんばっかり・・・。最近ずーっとじゃないですか。ルフィが、ルフィが・・・って!私たちだって・・・私だって、隊長が大好きなのにっ!」
「・・・・・・・・」


 口を開けてポカンと数秒、それからエース隊長は大声で笑い出した。恥ずかしさで真っ赤になってゆく自分の顔を自覚する。ひとしきり笑ったあとエース隊長は楽しそうに目元をゆるませながら、私の頭にポンポン、と触れた。


「あのなあ、おれは、そりゃあルフィはたった一人の弟だし大事で誇りだけど、お前らだって俺の大事な大事な、家族だぜ?比べられねェよ、どっちも同じくらい大切だ。・・・けど」


 頭に触れていた手がいつのまにかするりと移動して、酒に濡れた私の唇をゆっくりとなぞり、もう片方の手が肩に回されて引き寄せられる。イタズラっぽい光を灯した黒い瞳が近い。こつんと額と額が合わさって、エース隊長は私を見つめる。え、待って、頭が追いつかない。


「おまえが俺を大好きだってのは・・・特別な意味でとってイイんだろ?」


 ぽーっとする頭、ふわふわきらきらする世界。きっとアルコールのせい。でも、今は。今だけは。悪戯っぽく、だけど優しい笑みの隊長の唇と触れた。熱を放つ心臓が震えて破裂しそう。え、今、もしかして私、世界で一番幸せな女の子だったりするんだろうか。














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(Love A Blother Complex? xxx...)








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