※残酷表現が多々見られます。苦手な方はお戻りください。














 初恋を論じる程頭が煮えているわけではないのだけれども、とシャルナークは一人口の中で呟いた。女と男が出会うきらりとした瞬間がもしもあるのならば、人間はもっと簡単に愛し合えるものなのではないだろうか。と、こう考えているのが例えば昼下がりの小洒落たカフェで紅茶を片手に、なんてシチュエーションだったのなら、それこそ頭が煮えている様な気がする。だけど生憎、月も中点にさしかかる程の夜更け、片手に持つのは鮮血に濡れたナイフで、足元に転がるのは人だったモノ、だ。ただぶらりと食事に出ただけのはずだったのに、なんでこんなことしてるんだっけ、とふと我に返る。最近そう言えば女も抱いてないなあ、ああでもさすがにこんな血みどろじゃあ風俗にも入れないし、とナイフについた血を拭ってそのままゴミ置き場のポリタンクに向かって放り投げる。そこまでして、足元に転がった生首を見て思考を止めた。ごろりとしたそれは綺麗な少女の顔で、場の惨劇には似つかないような安らかな顔をしていた。血しぶきも、偶然か、その首にはほとんど飛んでいなかった。かがんでそっと、まるで宝石でも扱うようにそっと持ちあげたその首はずしりと重くて先ほどまで生きていた証のようだった。ああそうか―――とようやくシャルナークは唇に笑みを乗せた。「殺してくれませんか」と、まるでお茶にでも誘うかのような気軽さで、自分の命の終わりにシャルナークを誘った少女。新手のナンパのようにも思えず、普段はロクに使いもしないジャックナイフなんかで衝動的に殺した。彼女の流した血は紅く美しく、その情景全てが目に焼きついた。首だけになった彼女の乱れた髪を手で梳いてやる。そうだ、名前くらい聞いておけばよかったなあ、と一人ごちて、命の終わる瞬間に本当に幸せそうに幸せそうに笑った少女のもう動かない薄い唇をそっとなぞって、まだぬくもりの残るそこに自分の唇を重ねた。










バイバイ、エレジー

(きらりとしたその瞬間、彼女は僕の手で命を止めた)





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