下半身に走る激痛に、うとうとと彷徨っていた夢の狭間から覚醒する。瞬間的に吸い込んだ息が肺を逆流して体を仰け反らせた。ひく、と喉の奥が引きつり上手く呼吸が出来ない。バタバタと慌ただしく走る音、誰かの叫ぶ声、ガシャガシャと耳障りな金属音。耳に飛び込んでくる雑音が気持ち悪くて、息が苦しくて、くるしくて、自分がどこにいるのかも把握できないままに体をよじる。ヒッ――――と喉の奥から呻きが漏れ、る。くる、しい。くるしい。苦しい、誰か。痛い。


「――――おい」


 ヒヤリと冷たい何かが額に触れる。心地よい冷たさに、すう、と苦しさが遠のいていくような気がして。それでも短い呼吸をひきつるように繰り返していると、耳に優しい低い声が落ちてきた。


「ゆっくりでいい。ゆっくり、深く、長く息をしろ」


 ハッ、ハッと短い呼吸はそのままに、私は懸命に口を開いた。ゆっくり、そうっと―――意識しながら息をする。優しい優しい声に導かれるように、その声に合わせて酸素を吸う。拒絶反応を起こしていた肺がゆっくりと落ち着きを取り戻していくのが分かる。堅く握りしめていた手が震えた。強張っていた体中から力が抜けていく。耳障りなだけだった周囲の音がようやく意味のあるものとして聞こえてくる。乾いていた唇を無意識のうちに舐めるとざらりと血の味がして、私はようやく自分の居場所を理解した。そろそろと目を開けると、真っ白な世界が飛び込んでくる。しばらく使われていなかった目には部屋の光すら眩しいらしく、すぐ目の前にいてくれているその人の姿すらただの黒い影にしか見えない、けれど。――――ああ、そうか私は、


「・・・・・・ただいま戻りました、リヴァイ兵長」
「よく戻った。よ」


 苦しむ私を看病してくれていたのは。私なんかのために、ただの一兵のために、部下の一人でしかない私のために。生きて戻ることのできなかった兵士もたくさんいるのに、貴方の大事な部下を助けることもできなかった、ただ見ていることしかできなかった、私のために。たくさんの感情が溢れてきて止まらなくなって、だけれどそんな思いを言葉にすることすらできなくて、ただ、ただ、私はぼろぼろと子供のように涙を零した。リヴァイ兵長が泣くことすら許されないことを知っていながら、そんな彼の前で。


「・・・・・・・・・ありがとう・・・ございます・・・・・・っ」


 何か言わなくちゃ。なにか、なにか。なんで私は泣くことしかできないんだ。そう思いながら必死で紡いだ言葉は、それだけで。ああ、どうして私が生き残ってしまったのだろう。目の前で死んでいったたくさんの同僚、先輩、後輩。でも、それでも、きっと。
 このひとよりは悲しんではいけないはずなのに。


「しっかり治して戻ってこい」
「・・・ッ、はい・・・!」


 ずたずたに引き裂かれた左足の中身はぐちゃぐちゃだ。骨も、神経も、きっと滅茶苦茶だろう。だけど、私は生きている。生きているから。泣く私の手を一度握りしめて、兵長は隣のベッドへと向かう。生き残った一人一人の兵士たちを見舞う彼は、彼だって怪我くらいしているだろうに、そんな素振りすら見せないその姿に、私は。











翔ぶ背中に手を伸ばす

(わたしのしんぞうを、あなたに)













130922