「早く!ほら!」


  心なしか焦っているようなに引きずられるようにして、私はどうやら西に向かっているようだった。珍しく焦りを隠そうともしない彼女は、私を振り返ろうともしない。すでに痛みを通り越して感覚のない左腕。曲がりなりにもハンターで、常人以上の力を持っているのに手加減らしいものは全くなかった。それでも、彼女の力を受け入れられないほど、弱いつもりはないのだが。


 ・・・・・・それにしても一体どこに向かっているのだろうか。だんだん日は落ちてきて、あたりはうす暗く染まっていく。前にいるの青い髪も、あまりはっきりと色が見えない。ふと、すぐ目の前にいるはずの彼女が夕闇に溶けて行ってしまうような気がして、掴まれている左腕と逆の右腕を伸ばして私からもその細い腕を掴む。思わず振り向いた顔は少し驚いたようだった。それでも、足取りは遅くならない。


細い路地をぬけてどんどん住宅が減り、遠ざかる。足もとのアスファルトが土になり緑が現れてきたころ、ようやくの足は止まった。


「・・・・・・間に合った」


 軽く息を切らして、そのままは目の前の茂みをがさがさとかき分けながら更に進んでいく。何が何だかわからないまま、私もそれに続く。そしてすぐ、目の前に開けたのは、


「――――――これは」













「宵の……明星・・・・・・・・・?」













 群青と緋、そして金の混じった空、すでに頭上より後ろには気の早い星たちがきらきらと自分を主張し始めている。それが映った眼下の海も同じように鮮やかに染まっていて、なおかつ揺れる水面と緋の下で泳ぐ魚たち。それらの体の美しい色すらも、この果てしない空の色には敵うはずもなくみな同じ色だ。そして、ほとんど役目を終えて眠りにつこうとする太陽の最後の断末魔の金だけが、空と海との境界線を浮き彫りにしている。そんな輝く金がついに沈み、境界線が曖昧になり夜が世界を包もうとするその瞬間、「それ」は姿を現した。きらきらと瞬く星たちよりひときわ、そう、まるで太陽が私たちのもとに零れ落として忘れていったかのように、鮮やかに金色に輝いた。本当に、綺麗なんて言葉なんかでは物足りないほどに。


「・・・・・・この、瞬間が見せたかったの」


 そう言って乱れた髪をかきあげて、空を見上げたまま嬉しそうに笑った。その姿を振り返って、それから私は再び空を見上げた。宵の明星は、ほんの一瞬、短い時間しか見ることができない。そしてここは、そんな光景を発見したのベストポイントだったのだろう。早すぎるわけにもいかず、かといって遅すぎれば見ることなんてできない。そんな刹那の輝き。


「まだ、誰にも教えてないんだ。この場所。・・・・・・誰よりも早く、一番最初にクラピカに見せたくて」
「―――ありがとう、
「・・・明日になったら、もう会えないかと、思って」


 ゴンたちの発見したグリードアイランド。2日後はその参加資格の審査日。もちろんもついていくのだろう。そして私は、ボスのためにももうヨークシンを出発しなければならない。


「・・・・・・この場所、秘密だからね。誰にも言わないでよ。だから」
「もちろんだ。・・・だから」



「「また会う日まで」」



「元気でね」
「無理はするな」
「連絡は入れるから」
「絶対に会いに行く」
「それまでは絶対、」
「ここも、このことも、誰にも話さない。・・・そして」



「また、ここで会おう」



 完全に世界が闇に包まれる前、刹那に自分のすべてを賭けて輝くあの星のように、どんなに一瞬で儚い小さな約束だったとしても、まるで夢のように優しく柔らかい時間だったとしても、絶対にこの約束だけは守ってみせる。そしてまた私たちはここで出会うのだ。生き抜いてみせる。すべてはいつか分からない、たった一瞬の、刹那の時間のために。誰にも話さない、誰も知らない、二人だけの秘密の場所で、秘密の約束を果たそう。そう交わして、私たちは唇を重ねた。










(ふたりだけの、内緒話)
(約束だから)
(生きるよ。君のために、自分のために)






























企画提出 12月20日
もっと明るい話になるはずが結構シリアスに。
精進せねば。
時間枠はヨークシン編終了後くらい。
参加させていただいてありがとうございました。