「あー、うん、それで・・・多分こうなると思う。・・・・・・」 「ああ・・・そうか。ありがとう。助かった」 「んー、じゃあ感謝ついでに、今から会ってよ」 「・・・今から?」 無理だ、何を考えている、絶対そんな返事が返ってくるだろうと思っていたあたしは、予想外の返事に仰天した。え、うそ。冗談のつもりだった・・・のに。 「・・・分かった。なら時間と場所を指定してくれ」 「えっ、あ、じゃ、じゃあ」 ラッシャースター広場で、30分後に。 かちゃん、切った電話が間抜けな音を立てる。嘘、うそ、やだ、こんなにいきなり会えるなんて思ってなかった。相手がゴンやキルアやレオリオだったら慌てたりなんかしないのに。大体、どうしていつもなら、絶対に会えないとか無理だとか仕事だとか忙しいだとかそんな感じの理由をつけて、会ってなんかくれないのに。あたしだってそれなりに忙しいからあっちから連絡があっても断ることがすごく多くて、確かにクラピカのことなんて偉そうにいえないけれどだけれど。こんなぐるぐるぐる、頭の中で考えてる間にもう5分経ってしまった。うわ、どうしよう。 大急ぎでジャージ脱いでTシャツ投げて、ジーパンを引っ張り出す。あんなこと言わなきゃよかった、ちょっと後悔しかけたけれど、むしろあたし、グッジョブ。今、さっき言わなかったら絶対会えない。少なくとも半年くらいは確定事項。そんなの嫌だけれどこんな突飛な職業やってりゃ日常茶飯事。そういえゴンたちとなんてここ2年は会ってない。あのチビたち、成長してるだろうなぁ。ゴンもキルアも、あいつらいい男になってるって。レオリオも会ってない。医者免許はまだとれないらしい、けれど。でもあいつの腕前だ、きっとすぐ取れるだろう。・・・分かってるよ?現実逃避。 今更クラピカと会うのにお洒落なんてしても仕方ないから、服装はごく普通に短いジーパンと丈が長めのタンクトップ。髪もいつものように片耳の下で結ぶ。こんな格好でもさっきのジャージ姿よりよっぽど様になった。実は仕事が途中でしかも期限は明後日だったけれど既に手をつける気なんてない。いいよ別に、明日徹夜でもなんでもしてやってやるから。全く、ブラックリスト・ハッカーハンターなんてやってると変にデスクワークが増えるからやってらんない。あたしは基本的にアウトドア派なのだ。 ダッシュで広場に向かう。それなりに距離はあるけれど、本気で走れば二分で着く。思ったとおり、汗ひとつかかずに到着。だけどもう彼は大時計の下で本を片手に立っていた。 ===*===*===*=== 軽い足音がして、本のページから顔を上げればそこに、くすんだ銀の混じった青の髪の少女がいた。本当に久し振りに目にしたその顔は、なんだか少し綺麗になったような気がした。偶然。そう偶然、仕事場がこの近くで、に助言を頼みその代価として「会うこと」を示されたとき、唐突に思い出したのだ。の現在の住居は、この近くだということに。 『へっ?うそ、はい?え、あの、・・・ワンモアプリーズ?』 冗談まがいでいったつもりだったのだろう、が電話の向こうで硬直したのが分かった。それでもなんだか、 彼女の言葉に、魅かれて。 「ごめん、時間通りに来たと思ったんだけど」 「ああ、いや。私が早く来たんだ。気にするな」 「・・・うん」 予想外だよと、言わんばかりのの顔は少し上気して赤かった。走って来たからだとはいえ、彼女が表情を変えるのは珍しい。いつもなら息を切らしさえ、汗をかくこともしないのに。それとも、顔が赤い理由を、私と会っているからだと都合よく解釈してもいいのだろうか?微かな期待が胸をよぎった。 ===*===*===*=== 「なんか、誘っといて、ごめん。忙しいのに」 「それはお前にも言えるだろう?どうせ仕事をほうり出してきたくせに」 「う゛」 連れ立って歩きながら、ちょっと照れる。店のウインドウにあたし達が映る。少しだけの身長差。いつの間に恋人同士、になったんだろうと思った。少し前までは仲間とか友達、ていう関係だったのに。ゴンとかキルアとかレオリオとか、みんなもかけがえのない仲間なんだけれど、それでもやっぱり、クラピカだけは特別。あたしのなかでぬきんでた存在。 あたしのために(そう都合よく解釈していいのだろうか)一日だけ自由な時間を与えてくれたクラピカ。嬉しかった(もう仕事なんて堂でもよかった)から、本当に。滅多にない幸せな時間を、もっともっと一緒にいたいなんて、柄にも無くそう思った。 明日になったら(明日どころか数時間後かもしれないけど)またサヨナラなのだけれど、それでも良かった。今さえよければ。 080320 |